#199 「よそはよそ!うちはうち!」中世ヨーロッパの日常が生んだ教育の多様性

【今回の内容】
中世ヨーロッパの教育事情/生活と密接した教育/キリスト教修道院/協同組合、ギルドの誕生/バラバラだった勉強の中身/権力の分散と大学/気になる内容は次回……

樋口:はい、ええ、前回まではギリシャとローマの古代教育についてのお話だったんですけども、今回はキリスト教が入ってきてからの教育についてです、お願いします。

深井:はい、今回はキリスト教、ローマ帝国が滅びるじゃないですか。西ローマ帝国が滅びて、前もやったけどビザンツ帝国は残る、東ローマ帝国は。けど西ローマ帝国は比較的すぐ滅んでしまって、その後には各ヨーロッパでは国が群立していく時代になりますよね。ローマ帝国ってのがすごい広範囲を治めていた時代が長く続いたんだけどそれが崩壊したことによってバラバラになるということが起こります。ローマ帝国があるころってのはそのローマ帝国っていうフォーマットでみんなが治められてたわけです。けどそのフォーマットが無くなっちゃった。

樋口:統一から分散の時代。

深井:統一規格で治められていたのが無くなってしまった。ローマがある時は法律もあったしラテン語という言語もあったし貨幣もあったし軍事制度も整ってたし、道路もあったし都市計画も一つのところが決めて色々どういう都市をどういうところにどういうふうに作るかみたいなのを考えてたりしたということです。ここからさっきも言いましたけど諸国が群立、並立していくという状態になっていって。それがいわば本当ここからいろいろ変遷ありますけどその時にできて群立した国々が今のヨーロッパ諸国の原型になっていってるというわけです。このような社会変化が起こってことによって、じゃあ教育はどういうふうに変わっていったのかということですよね。ここから所謂中世ヨーロッパという時代に入って行くわけですけども。中世ヨーロッパの教育ってのは大きく二つ前半後半で分かれてる。前期は修道院での修行がメインみたいな感じで。

樋口:ふうん。修道院か。

深井:いわゆる学校が一旦なくなって聖職者学校みたいなものしか無くなってる状態。学校という視点から見たらね。ただその間にギルド教育といわれる、これも後でなんのことか説明しますけど、そういうものが行われているという状態です。その後大学というのが出てくるんです。

樋口:あら。

深井:大学。

樋口:へえ、この頃なんですね。

深井:中世ヨーロッパですね。この大学が出てきてからあらゆることが実は変わっていきますけれども、なぜ大学が出てきたかというと、やっぱりこういう諸国が並立している状態じゃないと実は大学というものは出て来れなかった。だから非常に面白いよね。このステップを踏まない限りはやはり今みたいな社会にはきていないわけです。

樋口:へえ。どういうことだろう。

深井:よくね、中世は暗黒、中世ヨーロッパってのは暗黒時代だとか人間の進化が止まった時代だという言われ方もしたりするんですけど、必ずしもそうでもないし、進化か進化じゃないかってのは前回もいいましたけど社会のパターンの違いというか、タイプの時代であるということも言えるので、必ずしも良くなってる悪くなってるみたいな捉え方ってのは一つ色眼鏡すぎるなと思ってる。

楊:価値判断が入るから正確には把握できない。

深井:そういうものがあるんだけれども、それを置いといても、そういうことを考えなくてもやっぱり中世ヨーロッパの状況というものがない限りは現代のような教育というのはおそらく出てきていない。古代からスキップしてこっちにくる、中世をスキップして今みたいになることができなかったであろうと思われます。ちょっとそれはどういうことなのか。

樋口:気になりますね。

深井:という話をしますが。中世ヨーロッパでの教育ってのは基本的には日常生活の中で行われることになります。さっき言った修道院での教育ってのは学校ていう意味ですね。学校というものがあるわけではなくて、それぞれの性別とかそれぞれの年齢はある程度関係あるんですけど年齢に分けられてそこでの伝統的知識を教えられる。その領域の伝統的知識ってのを教えられる。農民だったら農民の伝統的知識を教えられるし、職人だったら職人の伝統的知識を教えられるというような状態にあります。この時代ってのはいわゆる本当弟子制度なんです。弟子制度で徒弟奉公というけど、徒弟制度という、そういうシステムの中で動いています。特徴としては座学という感覚ではないですね。この時代の教育が。生活の中での行為がそのまま教育になってる状態になってます。なんで、何かを作るか、麦を植えるみたいなことをする行為そのものが教育として、今で言うところの教育として機能していた。彼らがそこによって小さいころからそれを学び始めてある年齢くらいになると大体習得しているよねっていうことで、実際にその仕事を担う同僚となっていくわけです。大人の仕事を一緒にやってくれるひと。大人と子供という概念がないとさっき言いましたけど。この時の教育はそういうような生活の中で行われている教育がほとんどなので、国家とか政治的権力とかとはかなり遠い状態です。その人たちが司っていない状態。ちょっと補足するとちなみに詩の朗読とか暗唱みたいなものをやったりとか物語を聞くとかそういう教育もあります。

樋口:芸術。

深井:ただただ仕事してるだけじゃなくて。教育と言うか単純に生活の中でそういうことをやってたということです。それがそのまま吸収してたということですね。もう一つ想像しづらいと思うので伝えるとですね、年齢階層別に同じ年齢の人たちをひとところに集めて何かするみたいなこと全くしてないので。

樋口:そこまでは。

深井:ローマとかだったらやってました、スパルタもやってましたよね。7歳から集めてたってことは。この時代そういうことやってないので常に大人と一緒に生活してるんです。これってすごく体験として違うんです。子供達だけ集めて子供達と先生だけでなんか勉強してる状態と、そもそも大人が働いてるところにいるって状態。それをそのまま見ながら勉強してる状態。今のオフィスワークがほとんどの仕事になってしまった我々からすると、想像がしづらいんだけど、状況としては僕たちの仕事場に3歳くらいの子供連れてきてて、その子がそれを見ながら学んじゃってる状態と一緒です。

樋口:わかるわかる。

楊:模倣している。

深井:模倣していく、オフィスワークでそういうことを起こらないので起こらないでしょうけど、これがものを作ったりだとか、さっき言ったみたいに麦を植えるみたいなことをしている場合は農業はしてるとかいう場合は見てわかってくる。

樋口:そうでしょうね。

楊:子供達の間でママゴトとかを通じでスキルを勉強していく、予行演習していくのはやってました。

樋口:時代劇とかで個人商店とかで子供が手伝ったりしてたりするような、ああいう感じ。一緒に同居してる感じですよね。

深井:家業の修行をしていくというのが大事、農家だったら農家、職人だったら職人ていうやつのことですね。あとは文字も覚える必要があんまりなくて、最低限の若干の文字の習得ということがあったみたいです。この若干ていうのがどういうことなのかわからないですけど、多分全くしてない人もいればいくつかの単語だけ読める、そういう人もいるんじゃないかな。これも想像なんですけど。

樋口:想像ですね。もしかしたら仕事に関係のある言葉だけ知ってるかもしれないし。

深井:とか、書き言葉だけね。

樋口:書き言葉ですね。

深井:ていうこと、そこまで細かくどの本にも書いてなくてわからなかったですがおそらくそういうことだろうと思います。いわゆる学校スタイルみたいなものていうものはキリスト教関連のものしかないんですね。この当時キリスト教の司祭ていうのは所謂エリートなんです。知的エリートなんです。この人たちが唯一の知的エリートの状態でその知的エリートになるためにはやはり神父を育てるための学校てのが必要だった。ここで文法とか修辞学、論理学、算術、幾何学、天文学、音楽って、所謂これがリベラルアーツなんですけど。そういうののもともとリベラルアーツと呼ばれたものです、これが。こういうものを勉強していた。勉強しているんだけれども彼らは自分が修道士になる修行しているという感覚なので、教えるのを頑張って教えようと言う感覚ではない。みんな自分が修行してるわけ。懇切丁寧に教える、教えることが大切だ、教えることが自分たちの仕事だって思ってる人たちが集まってるわけではない。ここもちょっと感覚としてはだいぶ違うところです。

樋口:そうかも

深井:うん。職場とかそうですよね、だから。教えるのが自分の仕事だと思ってる人あんまいなくて、自分は自分の仕事でそれを達成しなくてはいけなくて、その中で後輩が入ってきたら後輩に教える。感覚としてはもしかしたらそう言うことに近いのかもしれないけど、それぞれ自分は修道士であると思ってる。学校はこれくらいしかないんだという状態ですね。もう一つ重要な概念としてギルドというのがあるんです。

樋口:ギルド。

深井:はい。ギルドってのは都市、この都市のこの職業の人たちがギルドを作っています、みたいなもので、都市単位で自分たちの相互補助をしあう、融通しあうという関係を作っている組合団体みたいな。

樋口:組合ですね。

深井:やつですね。例えば鍛冶屋さん、この町の鍛冶屋のギルドとか、何々のギルド、みたいな感じでなんでもあるんですけど。

楊:でもその鍛治の仕事はそのギルドにしか頼めないし、鍛治の仕事したかったらそのギルドに所属しないといけない。完全に独占状態。

樋口:うんうん。

深井:これはやはり統一権力によって、つまりローマ帝国によって治められてた時ってのは自分たちの権限ということがどこまでで、何をするべき人たちなのかを規定してくれる人がいてくれてるから、何かトラブルがあったりした時にその人たちに泣きつくか法律で判断してもらえばいいわけですよね。だけれどもそういう存在がいなくなって、特に初期の中世てのはキリスト教会が強くて、国家権力ってのはまだ弱い状態なんです。これもエリザベスの時とかにも言った。いろんなところでこの話しました。

樋口:信長の時もありましたね。

深井:はい。そういう状況の時に自らお互いを助け合うというニーズが発生する。それで彼らがなにを、ギルドを形成して端的にいうと何してたかというと、販売をギルドメンバーだけで寡占する。そして生産もギルドメンバーだけで寡占する。つまり自分たちだけしか作っちゃいけないし、自分たちしか売ってはいけないということをみんなで約束しあうことによってお互いを守るということを都市単位でやるということが。

楊:セーフティネットかな。

深井:起こるわけです。この都市単位でギルドを形成し、このギルドがいろんな領域でたくさんある状態が起こってきます。このギルドの人たちってのが自らのギルドのメンバーを育てるということをやってるわけです。それが徒弟制度でやってる。つまりマイスターという職人の親分みたいな人が親分に付いた弟子の人たちを育てていくということをやってる。

楊:スキルとか知見とかもそのギルドの中で門外不出のものとして扱われる。ずっとその中だけで継承されていくってのをやっています。

樋口:なるほど。なるほど、守ってたんですね、外と中を分けて。

深井:例えばですけど徒弟としてマイスターの元に、親方のところに住み込みで修行を始めるんですけど、始めて一定の技術を習得すると職人は生徒の方、弟子の方は諸国を遍歴しないといけない。その諸国を遍歴しながら各地のギルドの技術ってのもそこで教えてもらえるんだって。そこでいろんなところを経験しながらマスターピースというものを作る。傑作と呼ばれるものを作って、自分で。

楊:卒業製作みたいなの。

深井:卒業製作してそれがマイスターに認めてもらえると晴れて正式なギルドメンバーになれる。

楊:今のドイツもある、マイスター制度が。

深井:これが12世紀以降てのはヨーロッパ社会には基本的にはこういうことがある状態があった。なので職人の人たちはこういう教育を受けてて学校は無かったってことです。

楊:ちなみに雑学として聞いてほしけど、後になってヨーロッパで産業革命が起こる。

樋口:ありますね。

楊:実は産業革命が起きてるときに機械の導入に対して一番の抵抗勢力になったのがこのギルドなんです。自分たちの仕事がなくなるから。たとえば印刷機があるじゃないですか、印刷機を導入しようとして、パリで、それに対してパリのギルドが、写字生ギルドですね、文字を写すギルドがあるんですけど、それに対して暴動が起きたりしてる。なのでこれで何が言いたいかというと技術の変革によって教育内容が変わったりするし、それまでに承継されてきた知見とかスキルが価値を持たなくなるということが起きるわけです。技術変革によっても。

樋口:それはすごい想像できます。

深井:後は騎士の人たちとかがいる。

樋口:ナイト。

深井:ナイト。この人たちは7歳ころから領主の館に住み込んで、そこでいろんな技術、騎士としての技術とか教養を身につけていく。例えば女性を尊敬しないといけないとかいうこともこの場で教えられるそうです、騎士の人たちはですよ。14歳から20歳までの間は盾持ちと呼ばれて、なんなんでしょうね、盾持ちが何かは書いてなかったけど。

楊:かばん持ちかな。

樋口:まあまあ、そう。

深井:見習いみたいな状態で武術だけではなくて礼儀作法とか詩を作る技術みたいなものもここで勉強する。

楊:狩をしたりとかチェスをしたりとかね。そういうのもやります。

深井:いわゆる貴族的な教育というのをここで受けてる。再三言いますけどこのように細分化された教育を受けてる。

樋口:そういうことですね。全然違いますね世界が。

深井:はい。みんなが統一的な教育を受けて、そして仕事に就くではなく。今の我々はそうだよね、大学生くらいまでほぼほぼ統一的な教育を受けてる。大学は専攻が分かれますけど高校くらいまではほぼ統一的教育を受けてから大学で専攻が分かれるというふうにしているんだが、この人たちはほぼ生まれた瞬間から分かれてて、それぞれのところで、学校ではないところで徒弟制度で教えられるという社会で生きている。

樋口:そうですよね。たまたまその社会にいる大人から教えてもらうみたいな感じになってますね。

深井:これが非常に重要なんです。つまり一つの国家権力が一つの教育を司るということがなかったがために、この後大学の誕生につながっていきます。

樋口:必要だったのか。

深井:つまり、実は大学ていうのもこの後大学の誕生の話する、そこで詳しく言いますけど、大学というのは一つのギルドなんです。知識人ギルドなんです。知識人ギルドがギルドとして国家権力や教会権力と比較的独立して生まれることができて、彼らが独立的に自分たちを自治してる状態が作れた理由はこの時代にみんながそうしてたからです。一つの統一権力がでっかいのがあるわけじゃなくて、それぞれが自分たちの利害が一致してる人たちがぼんと集まって相互補助をするということが当たり前の社会だったがために知識人の人たちもそうした。そうすると知識人の人たちは自分たちの比較的自由な発想を使うことができた。これがルネッサンスにつながっていくと言うことが起こる。

樋口:そうかそうか。ばんばん作ってよかったんですね、その教育のコミュニティを。そうかそうか。そもそもいろんなところで勝手に作る文化があった、雰囲気が。

楊:だから大学は別に国が作ったわけじゃない、このケースの話では。

樋口:サークルだ。

深井:サークルサークル、本当にサークル。お金も絡んでくるサークル、途中から。

樋口:そうですね、ほうほうほう。

深井:ポイントは中世ヨーロッパが政治権力が分散していた。この分散してる時じゃないと起こらない現象が起こったということなんです。この政治権力の分散ということがさっき言ったこの後の思想家大量発生に繋がっていく。この思想家大量発生で彼らは再度世界とは何かを考える。

樋口:すげえ、なんか、思想家大量発生ってやばい言葉だな。

深井:世界とは何かを再度考え直したことにより、結果的に社会が変わっていき、社会が変わった結果また教育が変わってくるというフローをもう一回たどることになる。

楊:だから思想家って偉大なんです。

樋口:はあ、なんか。大元を作るんですね、思想家が。

深井:そうなんですよね。ということで、次回は大学がここからどのように誕生して、そもそも大学とは何かという。

樋口:大学とは何かね。

深井:次回に言いますけど、日本にも高等教育はあったわけです、江戸時代。例えば高杉晋作の時に出てきた昌平坂という学校、幕府の学校に彼はいたんだという話。それで他の生徒は全員クズだとか、吉田松陰に手紙を送ってたという話してたけど、ああいう学校もあったわけだし。読み書きそろばんだけじゃないですよね、あそこの学校というのは、非常に高度なものを教えてるわけです、議論もしているし。ああいう学校と大学というのは何が違うのか。

樋口:違うんですね。

深井:違うんです。

樋口:違うんですね。へえ。

深井:高等教育てのはある程度発達した文明にはみんなあるんです。でも大学というのは一つでかい特徴を持ってるんです。一つか二つくらいのでかい特徴を持っていて、それがルーツの組織なんです。

樋口:それは今回では教えてはくれない。

深井:次回言わない。

樋口:言わない。

深井:来週、来週なのか4日後くらい。

樋口:知的好奇心くすぐる。

楊:くすぐられたらアーリーアクセス。

樋口:徹底的にアーリーアクセス。

楊:いやらしい。

深井:それを意図してるわけじゃない。アーリーアクセスにいれようとしてあれしたわけじゃない。

樋口:楽しみにとっておく。

深井:今言っちゃったら次回言うことが無くなっちゃうから。

樋口:確かに。なるほど。楽しみですね。

深井:じゃあ次回は大学の誕生の話をします。

樋口:はい。ありがとうございます。

楊:ありがとうございます。

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