【今回の内容】
武士って何?2つの説/公家、寺社家、武家、3つの勢力/土地を守るために戦う/律令国家になりたかった大昔の日本/皆兵制度/蝦夷と新羅/皆兵制から健児制へ/関東に配置された蝦夷/軍事を束ねる有力者、第0世代の武士が誕生/公地公民、班田収授法/墾田永年私財法で土地は自分のもの
樋口:はい、ということで本編突入でございます、お願いします。
深井:武士とは何かという話をしていきたいんですが。あのね、武士の出方って二つ説がある。一つは平安時代の後期に在地領主という人がいる、地方に住んでそこで田畑を経営している人がいる。その在地領主が領地を防衛していくために武装していったんだ、という説。
楊:誰も守ってくれないからね。
深井:さっき言ったように中央権力がしっかりしてないので。
樋口:警察がいないから。
深井:警察がいないから、ちゃんとした警察とかがいないから奪い合いになっちゃうので自分で武装したんだっていう説。おそらく天皇の時に言った説はこっちだった、天皇シリーズの時に説明した説こっちだったんじゃないかなと思う。今回もう一つの説があって、中央にいた貴族がある理由によって軍事官僚として地方に派遣されていって、その地方に派遣されていった人たちがそこにいついていって地方の軍閥化していく。説明が難しいかもしれない。これをすごく簡単に言うと、軍事のエキスパートの職をしている官僚の人が戦争のために地方にまでいったんだけど、そのまま現地の人たちと結婚とかしていくことによって現地にいついていって、そうすると中央から離れる、中央政治からちょっと離れた状態になる。その地方で力を蓄えていって、むしろ中央を脅かす存在になっていくという話。
樋口:わかりやすい。
楊:武力をもった独立勢力みたいな感じになっていく。
深井:ちょっとだけ違う。何が違うかというと、さっきの二つの説ってのは、一つ目の説ってのはもともと地方にいた人たちが武装していったんだって話、二つ目の説は中央にいた人が地方に行って武装していったんだって話。それくらいの違いしかないけど比較的これ大事な違いだったりします。いづれにせよ10世紀ころ、900年代、武芸とか軍事というものを自分の家の職業として持った人たちってのが公の軍事行動、つまり国が管轄する軍事行動を独占していくことが起こっていきます。武家の誕生ということですね。だいた平将門って聞いたことありますね、あそこらへんの人たちが乱を起こしてる頃にこういうことが確定していく。
樋口:平家。
深井:そうです。今回中世の武士ですね。中世というのは信長が生きてる時代が中世の最後らへんなんですけど、この中世の武士がどういうふうに生まれたかという話をしていく。それをする前にそもそも日本にどういう身分があるのかという話をすると、一つは公家、これは中央で政治を司ってる人たちですね。
楊:貴族。
深井:政ごとを職能としている、職能というのは職業の職に能力の能、それを職能としている人たち。
樋口:公家、はい。
深井:公家というのがいます。これは古代からずっと続いているすごく正当な権力ですよね。
楊:藤原家とかそういうの。
深井:天皇の王権というのを基盤にそれ、公家というのが成立している。もう一つが寺社家。
樋口:寺社。
深井:寺社家というのは寺に社の社ですね、神社の社のところの社に、社会の社、あと家と書いて寺社家。これは字の通りなんですけど寺とか神社のことです。宗教の分野というのを権能としている人たち。これも公家と同様にすごく古くから古代からある人たちですよね。最澄と空海の時に彼らが山を開いてそこで大きい寺の組織を作ったって話をしましたけど、まさにあの人たちがその後彼ら古代の人たちなんで、その後中世にいきます。その中世のときに権力、権力というか一勢力になってた。ここで一つ寺社家の説明をしたい。僕は空海と最澄の回で彼らはお坊さんというのは国から雇われてる国家公務員であったという話をしましたよね。
樋口:はい、ありました。
深井:中世の寺社家というのはもう国家公務員ではなくなってます。彼らは自らの領地を持っている戦国大名とあんまり変わらないような状態になってるんです。
樋口:へえ。
深井:武力も持ってるし領地経営といって田畑を耕して経営するってのもやってて、そこからの収入も得ているという一つの一勢力を形成している。
樋口:なるほど。
楊:凄まじい権力なんです、実は。
深井:普通に強いです。
楊:日本の歴史の中でたぶん寺社のことをちゃんと勉強した方が絶対わかりやすいです。
深井:そうです。
楊:日本の当時の例で言うと、当時京都ありますよね、都として。都の中に金融業者、貸金業者があるんですけど、その8割が比叡山の系列だった。だからめちゃくちゃ金に、経済に関わってる。それくらいすごく強いです。
深井:そう。だから比叡山延暦寺と信長なぜ戦ってるのかというと、そもそも信長の好敵手になりうるくらいの権力と経済力と武力を持っているので、普通に宗教が嫌いだから殺したとかじゃなくて、単純に、政治闘争と武力闘争で戦ってる。
樋口:他の戦国武将と戦うのと同じ感覚でいっちゃってるという。
深井:ただ、詳しく調べていくとやっぱり戦国大名と違う面はちゃんと、宗教権門なんで彼らはあるんですけど、そう言う風な理解をした方が最初はシンプルだと思います。一応説明しておくと、なぜ彼らが国家公務員からそのような勢力になっていったのかってことです。これ、ちょっと後の説明を聞かないと分からないかもしれないけどざっと説明してしまうと、古代日本というのは中国の律令国家といわれる中央集権型の国家をモデリングして、真似をして律令国家を作ろうとします、古代の日本はそれを作ろうとするんだけど、結構腐敗政治が進んでいくんです。
樋口:あらら。
深井:この腐敗政治が進んでいった結果、これは中国でも起こってるんですけど腐敗政治が進んで民衆がすごい税金を搾取されるみたいなことがされます。本当は民衆に限らずなんですけど、けっこう色々搾取されたりしていきます、税金が払えなくなったりする。その時に逃げる人たちが出て来る。この逃げる人たちを吸収したのは誰かというのがこの寺社権門だったんです。寺社の人たちがそれを吸収していって勢力になっていくんです。
樋口:へえ、なるほど。
深井:ていうのがあるのと、領地をどうやって確保していったのか。いろんな確保の仕方があったと思うけど、一つには墓地の管理。結構有名な人とかが殺されたりすると古代だとそこは呪われた土地になるという感覚がある、呪術的な感覚で。その呪われた土地を清めるために寺社権門がそれを引き取るという形でその土地を引き取って墓地、お墓にする。お墓にしてそこを清めるんだけどそのままその土地を収拾してしまうんです。
樋口:けっちい。
深井:めっちゃ京都のめちゃくちゃ一等地、日本でいうと原宿みたいなところに土地を持ってたりする、比叡山が。
楊:そう、3haくらい持ってたりする。
深井:それなんで持ってるかというとそういう墓地から始まったりしてる。けど、のちのちそこに墓地じゃなくて普通にお店とか構えられるようになっていって、そのお店からみかじめ料といったら言い方すげえ悪いけどそういう風にお金もらったりして勢力化する。そういう経緯が超簡単にいうとあります。
樋口:なるほどね、はいはい。
深井:寺社権門の一つの特徴としては比較的平等なんです。やっぱりなんでそういう平等思想が生まれるかというと、例えば老いるとか病、病気にかかるとか死ぬというのは権力に関わらず全員に訪れることじゃないですか。宗教ってそういうことを司っているから基本的に貴賎を問わずアプローチできる領域なんですね。
樋口:そうですね。
深井:弱い人たちも吸収できるし強い人たちも吸収できちゃうという特性があって、その特性をうまく生かしたわけじゃないけど、結果的に彼らはその特性によって勢力化していくというところがある。
樋口:面白い。
深井:国家から独立した状態でそこを司ってるから、老いるとか病気とか死とかを司っているから、国家から比較的独立した状態で公家と全く違う勢力として出て来る。公家とも武家とも全然違った勢力として出てきていて、治外法権なんです、彼らの土地ってのは。
楊:簡単には立ち入れないんです。
深井:そうなんです。
楊:奈良って今もそうなんですけど、めっちゃ寺がある。もちろん当時も寺がのさばっていてほとんど奈良の土地は寺のものだったんですけど、幕府は奈良に役人を派遣できなかった。役人を。それくらい治外法権だった。
樋口:へえ。
深井:そうそうそう、寺の権力が強い寺とかには役人は入っちゃだめ、警察権も及ばない。
樋口:すごい、違う国があるみたいな感じ。
深井:国家に追われてる人そこに逃げ込んだりする。源義経とかも逃げ込んだりした。そういう逃げ込むみたいな概念もある、かけこみ寺とかいう。
樋口:いう。
深井:そういう概念がなぜ生まれるかというと彼らが治外法権的な側面を持っていて異質なものだからですね。というのがあります。なので公家、寺社家というのがあって、それに対抗するもう一つの勢力として武家というのがある。
樋口:武家、きた。
深井:これは軍事という分野を司っている権力ですよね。軍事分野は全部国家権力から吸収してちしゃってる人たちですね、基本的には。ここで大事なのは彼らは戦士なんだけども領地を持ってるってことです。これを理解しないと戦国武将のこと全く分からないんです。軍事のエキスパートなんだけど傭兵みたいな感じではなくて、彼らは経営者なんです。
樋口:そういうことだ。
深井:なんで例えばただのエンジニアじゃなくて経営者でありエンジニアであるみたいな立場の人なんです。
樋口:プレイングマネージャー。
深井:うん、プレイングマネージャーというかね、経営者なんです。一言でいうと経営者であることを理解しないとわけがわからないんです。なんで、彼らは領地を経営していて、そこから収入を得ています。その収入を得ているとか自分の武士団というのを形成していて、自分の家来たちを持ってます。その家来たちを持っていて一つの軍事を司っている権門として成り立っている。これはだからちょっと想像しづらいと思うけど政治を司っている人たち、宗教を司っている人たち、そして軍事を司っている人たちが夫々土地をもって其々経営しながら生きているという状態。
楊:それやってることが重なっていることが多いんです。重なるとこが多いってことはそこにトラブルのタネがあるということです。
樋口:そうですね。
深井:この下に百姓とか農民がそれぞれいるわけです。さらにその下に下人と呼ばれる奴婢とか下人とか呼ばれる人がついてるみたいなイメージなんですね。一応わかりづらい事言うけど、ちなみに寺社家に仕えてる武士とかもいる。
樋口:被ってるんですね。
深井:そう、被ったりしてる。武士、侍でも全員武家なわけじゃなくて寺社とか公家に雇われている武士もいる。その人たちは雇われてる人だったり、領地持ってたりもするけど、そういう人たちもいるのもあるし、武家は武家で一勢力を保ってるんだけど、ここで大事なのが武家の頭領が幕府なんだということ、将軍なんだということです。この武家を司っている人たちのトップが誰か、これが将軍なんです。この将軍の家来の人たちが武家なんです。
楊:ただその頭領を頂点としたシステムに仕えてない武士もいます。非御家人といわれてる人たち。
深井:将軍の家来のことを御家人と言います。将軍の家来じゃない人のことを非御家人と呼びます。これは蔑称なんですけど、この非御家人という人たちもいるんです。すごく複雑ですよね。
楊:だから日本全国の武士と言われてる人たちを全部鎌倉幕府が繋がってるかといえばそうじゃないんです。
深井:鎌倉とか室町がね、幕府が繋がってるかと言ったらそうじゃない。
楊:いろんなバリエーションがある。
樋口:ある一人の武士が公家にも仕えてて寺社にも仕えててみたいなことはないですね。どっちかにフォルダーの中にいる。
深井:基本的にはフォルダーの中にいるんだけど、どっちかの権力にどっちともに仕えてるというか同盟組んでるとかは普通にある。
樋口:そういうことか、そういうことか、なるほど、はいはいはい。
深井:どっちつかずみたいな人もいる、やっぱ。
楊:こっちに仕えながらもこっちから金品とか贈り物をもらうというパターンもある。
樋口:そうかそうか。
深井:それくらい狡猾、みんな。生きていくために。
樋口:すげえ、でも複雑だけど、まあまあなんかイメージとしては理解できます。
深井:前回なんで戦国時代みんな戦ってるのかという話した。これ後でもう一回出て来ると思うけどこの時点で一回一言で言ってしまうと、基本的にはこの自分の領地を守るために戦ってます。
楊:土地です。
深井:土地を守るために戦ってます。
樋口:うん。
深井:だから防衛戦してます。
樋口:そうか。でも領土を獲得しにいってますよね。
深井:領土を獲得しにいくのは境目で自分が先制しないと盗られそうだからです。
樋口:守るために戦ったら向こうを倒して増えっちゃってる。
深井:そういうことです。向こうよりも先に倒すとか向こうを有利にさせないという原理で戦うことによって結局のところ彼らのインセンティブというのはなくて、守りたいということです。
樋口:攻撃は最大の防御をずっとやってた。
深井:そういうことです。基本的には全員そうだと言われてる。
樋口:へえ。イメージ違う。
楊:土地の揉め事ですよ。土地大事ですから、生きていく上で。生産物、食い物って基本的にに当時土地からしかできなかったものですから。しかもそもそも耕せる土地って、だって山地が3分の2でしたっけ、日本列島全体で。人間が生きていける平地は3分の1しかなくて、その中で耕せる土地って本当に少ないんです。だからそれだけ土地が生きていくために絶対不可欠なインフラだったけど限られてるので。
樋口:そうかそうか、土地と豊かさがかなり相関性が高かった時代なんですね。
深井:家臣団持ってるから、みんな、その家臣団から、家臣団も戦国時代とかになるとまさに明智光秀の謀反みたいな感じで謀反を起こして敵方についたりとかしちゃうんです。そういうことをさせないためにも繋ぎとめておかないといけない。繋ぎとめておくためには自分があなたの土地をちゃんと守ることができる人ですよということを示してあげないといけないんです。その示すというために戦ってたりします。
樋口:そうか、なるほど。
深井:おもしろいですよね。
樋口:面白い。
深井:でも本当そうだよねと思います、確かに。
樋口:イメージ違いますね。
深井:リスクは高いけどなんでそのリスク高い戦いをしないといけなかったかと言うと、現状を維持するためには戦わないと維持できなかったってことです。
楊:戦わないといけない構造があった。維持していく、国を維持していくために。
樋口:うん。
深井:ていうのが中世武士としているんですけど、じゃあこの人たちはどのようにして生まれてきたのか、ということが800年前に遡るんです。当然ですけど、もともと武士というのはいない、生まれる前は当たり前だけどいなかった。生まれる前なんだったかというとみんな兵士だったんです。律令国家と呼ばれる中国をモデリングした中国の唐の時代を見て、あ、いいなと思った日本人は遣唐使を派遣してた、まさに最澄、空海の時代に。それをモデリングして日本でも中国ぽい国を作ろうと思った。
楊:先進国になろうと。
深井:そう、先進国になろうとした、頑張った、そして律令国家と呼ばれる法律、法治国家を作ろうとした。基本的に土地ってのは全部天皇の土地である、これを公地公民と言います、教科書で聞いたことある人いる、公地公民だった。全部天皇の土地であって、それを貸してあげてるだけだよ、みたいな感じだったわけです。朝廷に属してるわけです、全ての土地と人もですよ。この時代においての兵士というのは全員が兵士になり得るわけです。この人たちは全員兵役を持ってる、税金みたいな感じ、税金払う感覚で労務として兵役をこなしてるわけです。一世帯に一人の兵士を出すと言う義務があった。これを皆兵と言います。みんなの兵と書いて皆兵と呼びます。皆兵制だった、もともと。この皆兵制でやってるんだけどもある問題が朝廷に発生するんです。これが蝦夷問題および新羅問題と調べたら出てきた。蝦夷というのは蝦夷とも言います。日本というのは最初から日本全体が日本だったわけじゃなくて西日本だけだった、エリアが。東日本ていわゆる蝦夷の土地だったんです。
楊:野蛮の地。
樋口:うんうん。
深井:当時の彼らはそう思った。
楊:京都の側の人からみると。
深井:蛮族が住んでる土地だったわけです。律令制と言われる自らの国家制度が及ばない土地だった、そこは。辺境だったってこと。蝦夷という人たちはモンゴルの時にもやったけど騎馬兵使ったりするので強いわけです。その強い人たちに農民を兵士にした人たちを皆兵としてみんな兵士だぞって普通の人を兵士として送りだす、勝てない。
樋口:それはそうだ。
深井:強い。もう一つ朝鮮半島に新羅という国がある。この新羅という人たちとも対抗しないといけないわけです。日本は朝鮮半島にも干渉してたんで、古代は。そこでも戦いがあったわけです。
楊:ようするに国防の目的だよね。
樋口:うんうん。
深井:そうそう。この律令下における軍事制度で対応できなくなっていく、蝦夷であるとか新羅に対して強いから勝てませんねとなってきちゃう。そんな中でこれが8世紀末から9世紀にかけての話、だから700年代末から800年代にかけてこういうことが起こったわけです。弱い兵士使うわけにはいかんので兵士を訓練し始める。この訓練をし始めるのが傭兵、これが健児制といいます。
樋口:健児制。
深井:はい。健やか、健康の健に児童の児、制度の制とかいて健児制と読めるんだけど、これで健児制と読むんです。この健児制というものに移行していくんですね。この健児制の皆兵制との違いってのは、傭兵なんだよね、健児制というのは。
楊:給料が出る。
深井:そう、給料が出るということ。お金を払って雇ってるってこと。皆兵制は義務。
樋口:嫌でも行かなきゃいけない。
深井:調達してた、それが健児制だとお金を払うんで軍人を雇い始めたってこと、特別訓練をする。何を訓練するかというと馬に乗って弓を射るという訓練をする。それによって蝦夷たちと対抗しようとするわけです。
樋口:強くなるね。
深井:はい。この人たちによって対抗させようとして蝦夷と戦わせていくわけです。勝ったり負けたりするんだけど蝦夷を捕虜にすることができるようになる、これで。戦って勝ったりして何人か捕まえるということができる。この何人か捕まえた人のことを俘囚と呼ぶ。この俘囚を今度は俘囚強いんです、蝦夷なんで。この捕まえた蝦夷を使って蝦夷と戦わせるということをするんです。
樋口:裏切らせて。
深井:裏切らせるというか支配下に置いてね。投降したりとか捕虜になったりして帰順した蝦夷の人たちを使うようになる。この人たちを一所にまとめてしまうと反乱起こしたりすると怖いので、この人たちは分散配置するようになるんです。これをどこに配置したかというと坂東と呼ばれる関東、あとは瀬戸内海の方、瀬戸内、そして九州というところに配置をしてこの人たちを瀬戸内とか九州の海賊対策に当てたりだとか坂東で蝦夷と戦わせたりとかいうことをし始めます。つまり軍事的な問題が起こりそうなところに分散配置をして特別保護民として扱いながら戦わせるということをする。ちなみにこの人の末裔が空海だった。覚えてますか、空海の先祖は蝦夷だったという話をしました。
樋口:そうだ。
深井:なんで彼が四国で生まれてあれかというと瀬戸内に配置されてるから、この人たちの子孫だった。
樋口:なるほど。はいはいはい。
深井:ということが起こります。
樋口:おお。
深井:彼らを軍事目的であるとか治安維持とかに使ってたりする。この量がけっこう大きくて一万人くらいが坂東に配置、関東に配置されたのは一万人くらいだった。
楊:めちゃくちゃ多いね、当時としたら。
樋口:多いですね。
深井:健児制による兵士ってのは1000人くらいだったと言われてるから、ほとんど蝦夷を捕まえて蝦夷と戦わせるということをしてるわけです。
樋口:将棋みたい。相手の駒とって。
深井:本当にそうですね。そういうことをしてるわけです。けれどもやっぱり天皇を中心とした律令国家制度の中に組み込もうとすると抑圧してるわけなんで反発されるわけです。だから頻繁に反乱が起こるわけです。この反乱をちゃんと落ち着かせて兵士として使うということが必要となる。これをするために派遣されたのが軍事官僚だったんです。中央の官僚の中で軍事的に優れた功績を残した官僚の人たちをあなたは軍事がめちゃくちゃ得意ですねということで、ここで軍事的な問題が起こっているので軍事の将軍的な立場、ジェネラルとして行ってください、そしてこの俘囚の人たちをまとめて蝦夷、捕虜にした蝦夷の人たちをまとめて対蝦夷戦をしてください。いうことを言った人たちが軍事官僚、この派遣した人たちが第0世代の武士。この人たちが後々に武士になっていく人たち。
樋口:なるほど、へえ、面白い。
深井:この人たちが小野春風とか藤原保則とか安倍比羅夫と呼ばれる人たちなんですけど、勇敢である、勇敢で普通の人と違うぞ、しかも蝦夷の言葉も喋れますみたいな。こういう人たちを派遣して。
樋口:優秀な人たちだ。
深井:現地で将軍的な立場として戦闘の将軍的な立場として使っていくわけです。
楊:指揮能力がある。
樋口:荒くれ者たちをまとめ上げる能力がある。
深井:そういうことです。この0世代武士の人たちが地方の有力者と婚姻関係を結んで混じっていくんです。混じるんだけど、この人たちはもともと中央から派遣されているので中央とのパスも持ってる。
楊:つながりがね。
深井:つながりがある。中央とのパスも持ってて地方の有力者と結びついて、地方の有力者となっていった。親戚になっちゃったから自分自身が地方の有力者になったってことになります。地方有力者の娘とかと結婚して、そしたら次の世代から地方有力者、自分の子供が地方有力者になる。
楊:相続していくからね。
深井:そうそうそう。地方有力者って何かというと地方でたくさんの田畑を経営してる人、領地経営してる人。この領地経営してる人たちと混ざっていって、領地経営して領地を持つことに至った軍事のエキスパートの子孫、これが武士。
樋口:強そう。
深井:これが武士。中央とのパスも持っているので中央とのコミュニケーションもずっとすることができるということです。
樋口:これは強そうなのが生まれてしまった。
深井:爆誕ですよ、武士爆誕。
樋口:ほお。
深井:ですよね。そうなんです。
樋口:へえ、すご、面白い。
深井:具体的に地方有力者、一応日本史勉強してる人のためにいうと、なになに郡、田舎の何々郡てある、君にこざとへんに司ると書いて郡司とか郷士とか荘官とかと呼ばれるような人たちと婚姻関係を結んでやっていったわけです。
樋口:前回でいったら、武士の興りでいうと中央から派遣されたパターンですよね、これ。
深井:そうです。中央から派遣された説を採用して今喋りました。
樋口:ということですね。
深井:はい。中央から派遣された説だとうこういうふうになっていきます。
楊:政治のリソースが分散していったってことだよね。
深井:そうだね。軍事の部分が分け分けされたってことになりますね。
樋口:で、中央の勢力を吸い込んで行ってそこはそこで大きくなったってことが起こった。
楊:面白いよね、中国の後漢王朝も似たような動きをしていたと思う。
深井:まあそうだね。
楊:地方のエリートが力を持ってって。
深井:軍閥化していくよね。軍閥というのは軍事力を持った派閥として台頭してしまうという状態になっていく。もともとその地方の有力者ってのは本当は中央から派遣された官僚だったりするわけなんですけど、公地公民の律令制と呼ばれる制度ってのは実はこれ本読んで僕もすごい意外だったんだけど、ちゃんと実施できなかったみたい。
楊:そう、難しい、官僚制持ってないから、システム持ってないから。
樋口:そうかそうか。
深井:やっぱり律令制を実現するためには優秀な官僚を大量に作らないといけない。
楊:事務作業めっちゃ必要。
樋口:そうだ。
深井:官僚を作るためのシステムというのが当時の日本古代というのはしっかり作れなかったんですね。だから各国に対して大まかには4人くらいしか派遣できないし、その中の何人かの人はもう行かなくなっちゃう、途中から。中央で政治派閥で争い始めたりとか、中央にいた方が有利だよねってことで地方に行かなくなっちゃう。そうすると地方に派遣された人たちが本来は権限を持ってないはずのことを自分たちで実務として巻き取っちゃうみたいなことが起こっちゃう。
樋口:そうですね、管理する人がいないからそうせざるを得ない。
深井:そうそう、その結果この人たちが力を持っていくという現象が起こるんです。この人たちと軍事官僚がさっき言ったみたいにくっついていくということが起こっていくわけです。だから権威と権力が分化していく。これすごく複雑なんです。
樋口:面白いですね。
深井:会社とかではよくある。本当は営業部長じゃないけど営業部長よりも人をまとめれるしめちゃくちゃすげえやつが実質的な営業部長みたいな動きをしてしまってます。みたいな。
樋口:営業部長は会社にこないみたいな。
深井:だけど営業部長がその先の本社とのやりとりの会議は営業部長しか出れないからパスがないんだけど、本部から派遣された人が本部からのパスも持ってる状態でこの営業部長の下の実力もってるやつとくっついちゃったから営業部長が倒されちゃうみたいな現象が起こるということなんです。
樋口:はあ。なるほどなるほど。めちゃくちゃわかりやすい。公地公民て全員が国の地域てなった。そこで蝦夷とかは入ってたんですか。
深井:入ってないですよ、もちろん。
樋口:そこに派遣されて蝦夷を倒すから公地公民の領地外のところは吸い込まれていった。
深井:いい質問なんですけど。これ、みんな多分覚えていると思うけど中学校の時に習いましたね。班田収授の法ってありました。
樋口:班田収授の法。
楊:中国語。
深井:中学校で習ってるから覚えてると思う。聞いたことあるはず。班田収授の法てのがあって、これは公地公民ということなんです。みんな耕すんだけどそれは国のやつだから死んだら戻してね。
楊:自分のものとして所有権を主張できない。
深井:所有権ないよってことですね。それで国家を運営しようとしたんです。律令国家である日本は。そしたら税収がうまく集まらなかったんです。ごまかす人とかたくさん出てきたし、そもそもそれができるのって戸籍をちゃんとつくらないといけない。だからかなり広範囲に渡って調査をしたりしないといけないんだけど、役人の数が少なかったらできない。
樋口:官僚の能力の話。
深井:官僚の能力も相当高くないとそういうことできない。管理ってできないからできなかった。
楊:戸籍にしても戸籍を偽って女性とかお年寄りとして戸籍を登録して税を脱税しようとする。
深井:男に税金がかかってたというのがあったりして。
楊:じゃあ税金を払わない、でも強制して払わせることができない、力がないから。全部多すぎて対応できないから。
樋口:そういうことだ。
深井:だから今の日本てすごいんだよ。
樋口:戸籍ってすげえですね。
深井:戸籍もすごいしあれもすごい、脱税に対する監査もすごい。ああいうのがあるから僕たちは今この制度で成り立っているんだけど、そういうことができないってことはこういうことが起こるよってこと。
楊:公地公民は結局機能あんまりしなかった。一応努力目標として理念としてばんと打ち出したけど実態が全然ついてこなかったのが実態。
深井:これベンチャーでめっちゃよくあって、こういう会社にしようぜっていったけどできないってことめっちゃある。
樋口:そっちが普通ですね。
深井:そっちが普通。日本もそれが起こったんです。起こって、起こった結果困ったんで、税収が減って困った朝廷は今度、これも覚えてると思うけど、墾田永年私財の法と新しく法律を変える訳です。これはもうすでにこの時点で理念と違ってしまってますけどみんなの私有地を認めましょう。私有地ってのはこれから開墾した土地に関してはあなたの土地として認めていいですよという訳です。
楊:でもそれで税金払ってくださいね。
深井:その代わり税金はちゃんと払ってね、登録してねということを言う訳です。そうすると中央からここはあなたの土地ですよと認めてもらってる所有地を持つことができるわけです。それは地方の有力者にとってもすごく有利なことなんです。所有権を認めてもらってるってのは実はめちゃめちゃ大切で、認めてもらってない場合の無法地帯って何が起こるかというと奪われるんです、実力で。これ別に誰の土地だってお前が言ってるだけだし、ぼんと奪われる。これを中央が認めてくれてると奪われましたって訴えるところができる。これがすごく大切なんです。ちなみにこれがなくなったんで戦国時代になるんですけど。これがなくなるんでこういうことができなくなる時に幕府がなくなるんです。ちなみに。ここはあなたたちの土地だよねということを幕府が言ってくれなくなったら幕府がなくなっていったりする。
楊:結論からいうと鎌倉幕府はなんでできたのか、その大きな目的の一つがこの土地はあなたの土地ですよっていうふうに保証してくれる一つのことが大きな目標だった。
深井:それを朝廷から幕府が代わりにやってくれるようになって幕府が権力を持つに至る。それも後で詳しく説明する。いづれにせよそうやって律令制がうまく機能しなかった結果墾田永年私財の法に変わってしまって班田収授の法から墾田永年私財の法に変わってしまって、そして地方で有力者が出てきちゃう。だから班田収授の法は地方で有力者を出さないために全部これは天皇の土地なんだと言ってたのにそれが上手くいかなかったのでめちゃくちゃ理念と違う法律を出してしまって、その結果その通りになっていく。それで朝廷の権力はその通り無くなっていくと言うことです。
樋口:なるほどね。
楊:たぶん実態がすでにそれぞれの地方の人が土地を開拓して自分で勝手に占有しちゃった、実態ができた上で後追いでじゃあもうしょうがないから墾田永年私財法で後追いでこれを認めてしまおうとなったのがもしかして実態かもしれない。
樋口:認めた方が税収取れるからというのもある。
楊:実態がすでにあるから法律で認めてしまうしかないよね、それで税金とれれば結果オーライだって考え方があった。
樋口:そうか。わかってきました、やっと。
深井:話が戻るんだけど、こういう軍事官僚が地方に派遣されて、さっき言った墾田永年私財の法で地方で力を付けていった在地領主の人と結びつくことによって地方で中央とパスを持った軍事官僚がその地方を自らの王国のように扱っていく。キングダムみたいな感じになっていきます、キングダム化していくという状態が起こっていきます。そういうような感じなんですよね。ここから次の回では鎌倉幕府ができるまでこの状態からどうやって鎌倉幕府ができるところまでいくのかという話をしたいなと思っております。
樋口:なるほど。
深井:はい。
樋口:いやあ、武士の興りって想像もしたこともなかったですけど、僕は刀振ってたら武士になってたみたいな。
楊:まあ、厳密に言うと刀じゃない。
深井:槍と弓。
楊:馬と弓ですね。
樋口:そうか、まだそう。
楊:馬に乗りながら弓を射れる、騎射だよね、騎射ができるのが基本スキル。
深井:なんでそうかといったら蝦夷がそうだからですよ。蝦夷がそれで強いからそれを見た朝廷はそれが強いんだと思ってそれを真似してやって強い。
樋口:全然イメージが違う。丁髷で刀差してるイメージしかなかった。
楊:それは後の時代。
樋口:侍ですもんね。
深井:江戸時代以降ですね。
楊:初期は馬に乗ってお互い馬に乗って矢を射るんです、お互いに対して。刀じゃなくて取っ組み合いをするんです、馬の上で。それで勝った方が脇差みたいな感じの小さな刀で相手の首を切る。
樋口:へえ。
深井:一応まだそこらへんの武士のちょっとしたチップスみたいなの残ってるからそれサポート特典に回すんで。この後はサポート特典で武士がどんな感じなんかちょっとだけ話して、本編の方は次にいきますね。
樋口:やった、武士めっちゃ興味ある。
深井:以上です。
樋口:ということで一旦お疲れ様でした。
深井:はい。
樋口:終わります。