#153 ローマ教皇至上権 〜俺か、俺以外か。〜

【今回の内容】
宗教改革の時代背景をざっくり説明/イエス以降のキリスト教(キリスト教については三大宗教シリーズを聴いてね)/教会の出現/キリスト教の広がりと迫害/ローマ&キリスト教の分裂/カトリックと正教会の成り立ち/どっちが元祖だ問題勃発/カールの戴冠/カトリック教会と世俗権力の結びつき/中世ヨーロッパにおける「死」とは/キリスト教徒でなければ人にあらず〜信仰を基にした社会システム〜/中世ヨーロッパの成り立ちと背景、そして宗教改革

樋口:はい、ええ前回はざっくりと宗教改革の概要についてお聞きしましたけども、今回はローマ教皇の歴史についてからお聞きしたいと思いますのでお願いします。

深井:お願いします。

楊:お願いします。コテンラジオ定番かもしれませんけども、時代背景からざっくりと説明します。時代背景といいましても今回はキリスト教がメインなわけじゃないですか。イエス以降のキリスト教、ざっくりとどういう流れで今回の扱う宗教改革の時代まで至ってきたのかというのをざっくりと説明したいなというふうに思います。

樋口:はい。

楊:キリスト教については以前のコテンラジオの番組でも取り上げたんでもし興味ある方はそちらのほうを復習も兼ねてもう一回みていただきたいんですけども。イエスがいましたよね。エルサレムで政治犯として磔にされて処刑されたというところから、話します。その時にはすでにローマ帝国の時代だったんですね。ローマ帝国。イエスが処刑されてから弟子たちとか、あとはイエスの教えに従う人たちが頑張ってローマ帝国の中で色々と布教活動とかをします。その甲斐もあってキリスト教が広まっていったのもあるし、あとはなんだろう、だんだんだんだんと組織化していくんです。組織化していって組織的に布教活動ができるようになっていきます。この後でも出てきますが教会ていう組織、システムが出来上がるんですけど。実はこの時から教会の原型ができあがったんじゃないかなと言われてて。というのも教会が例えば信徒、信じてくれる人たちの仕事を斡旋したりとか、あとは、そうそうそうなんです。仕事を斡旋したりとかそういった機能もあってけっこう信者が増えていったという説があります。

樋口:ハローワークじゃないですか。

楊:もちろん精神的な部分にもすごく関わってたと思うけど、やっぱり宗教って、前も言ったと思いますけど、宗教って宗教だけで生きていけないので、お金とかご飯が食べれるかどうかって実際に信じてる人たちにとってはクリティカルな問題だったんで、この時の教会はもしかしたらセーフティネットとして、信徒たちの、セーフティネットとしての機能の側面もあったんじゃないかと言われています。それで頑張ってローマ帝国内でキリスト教が広まって行くんですけど、四百年ものあいだ何回も迫害にあいながら苦労してる。

樋口:迫害にあってたんですか。

楊:そう、迫害に。ずっと迫害にあってたというよりは、時々大きな迫害があったりとかして、そういったこともありました。迫害の理由ってのは色々あるんですけど。やっぱりローマって多神教なんです。いろんな神様がいて、それぞれの人が自分の好きな神様を祭ったりとか敬ったりとかそういった社会なんです。でもキリスト教ってのは一つの神様、ヤハウェなんですけど、ヤハウェをしっかりと敬うということを大事にするわけじゃないですか。なので、私たちはヤハウェしか敬わないので他の神様の行事とか宗教行事とかでませんよ、礼拝しませんよみたいな、そういったことをキリスト教徒たちはいうので、それって社会の平和を秩序を乱すよねということで迫害を受けたりとか。そういったこともあったりする。あとはキリスト教は信者をどんどん増やして行くというフェーズにあったので、例えば奴隷も信者にいれたりとか、社会的な身分の低い人たちも信者に入ったりとかそういう人たちと一緒に行事やったりとかそういうことができた。それはローマの支配層、富裕層にとってはそれはありえなかったので、やっぱりこのキリスト教徒たちは社会の秩序を乱すから排除していこうという流れにつながって行くこともあります。だからけっこう迫害がひどくて、たとえばコロシアムってあるじゃないですか。剣闘士が戦ったりする、戦わせたりする場所。あそこでキリスト教徒を生きたままライオンに食わしたりとか。

樋口:ええ、しんど。

楊:そうなんですよ。たしか磔にして生きたままライオンを食わせてそれをローマ市民がみていええとかいったりとか。それでエンタメ化してる部分もある。あとは牛のツノでつかれたりとか鉄の椅子に座らされて焼かれたりとか。こういうこともされてたんです。

深井:いたそう。

樋口:見せしめの意味もあったんでしょうね。

楊:そうです。たぶん田川とかでもやってると思う。

樋口:やってない。

楊:あ、やってないですか。

深井:ひどい。

樋口:ひどい。迫害の対象だ。

深井:迫害の対象だとかいって。

楊:そんなこんなあって400年間ずっといろいろ苦労してきたんですけど。西暦392年にキリスト教がやっと国教として認められるようになります。

樋口:けっこう長い時間かかった。

楊:長い時間かかった。国教に認められるということはキリスト教を信じても罰せられない。安心してキリスト教を信じることができますよ。簡単にいうとこういう状態になります。

樋口:それまで400年弱かかってるのは結構大変だったんですね。

深井:400年てめちゃくちゃ長い。

楊:やっぱりマイノリティだったんでそれもあったと思いますし。マイノリティは自分の社会の中に出きたら社会の秩序を乱すものとして排除していくっていう力学がどうしても働いてしまいます。

深井:そうね。

楊:それは今も変わらないと思います。

樋口:確かに。

深井:この時期には国教に認められる時期にはいわゆる無視できない勢力になって、で、国教になっていくという流れで。ここ詳しく喋らないけど。ローマが国教に認められます。ローマが国教に認められた時に実はローマ教皇てローマの司教、ローマにいる大司教のことなんですけど。ローマ以外にも5つの都市に大司教って実はいて。ローマ教皇だけが偉いわけじゃないという時代があって。それがローマ、アンティオキア、エルサレム、コンスタンティノープル、アレクサンドリア、この5つの都市にそれぞれ大司教みたいな人がいて。

楊:そうですね。それぞれのエリア、統括エリアマネージャみたいな立ち位置。

樋口:コンスタンティノープルはここにはいってるんですね。

深井:そうですそうです。それが後々にビザンツ帝国に受け継がれて行くわけです。

樋口:なるほど。

深井:このローマの大司教てのが一番この中でも権力を獲得していく。実質この中での、この中というか西のキリスト教のトップみたいになる。ローマが東西にまず分裂します。ローマが東西に分裂することによってキリスト教もある意味東西に分裂します。西方教会とよばれるやつと東方教会とよばれるものに分かれます。西方教会の中心がローマになります。これはやっぱりローマ帝国の首都がローマだからですよね。自然にローマにいる司教てのは強くなっていきますよね。

樋口:そりゃそうだ。

深井:東方ってのはビザンツ帝国ね、東ローマ帝国、メフメト二世に滅ぼされる東ローマ帝国ってのはコンスタンティノープルが首都ですから、そのコンスタンティノープルてのが本拠地になっていきます。それぞれ場所が全然違うので同じキリスト教とはいえ、キリスト教って根付いた場所に当たり前だけど影響を受ける。キリスト教だけじゃない、全ての宗教がそうなんです。で、それぞれ影響をうけてスタイルが変わって行くんです。

楊:だんだんと違ってくる。

樋口:うんうん。

深井:そうそう。この時点で二つの宗派に、大きく二つの宗派に分かれる、キリスト教が。西がカトリック教会、東が正教会てやつ。

樋口:ここでカトリック教会ってのが。

深井:はい。だから西ローマ帝国のキリスト教がカトリックってことになります。これがある意味プロテスタントが出てくるまで一つしかなかったんです。

樋口:なるほど。

深井:ていうのがあって。で、ずっと僕が教会教会って、ヤンヤンも教会教会っていってるけど。一応補足しとくと。教会っていって、ハードウェアを想起する人いると思う。教会っていったら鐘がゴーンゴーンってなってる。

樋口:建物そのものですね。

深井:そうそうそう。あれじゃない。僕がいってる教会ってのは組織のことです。ローマ教会って組織があって、国を横断して存在する組織。そういうローマ・カトリック教会ていう組織ができてるってことです。それで、それぞれ存在してるわけですけども、東も西も。東はずっと東ローマ帝国は比較的長い間続くから。その庇護下でずっと生きていってるわけです。

楊:そうなんです。

樋口:うん。

深井:でも西はすごい早い段階で西ローマ帝国がゲルマン人に滅ぼされるんです。

樋口:そうだった。

深井:476年に滅亡する。

樋口:そうだったそうだった。

深井:だけどカトリック教会困る。

樋口:国がなくなる。

深井:国が無くなって、いわゆるガーディアンみたいな人がいなくなるから。

楊:後ろ盾が。保護者がいなくなる。

深井:そう、保護者がいなくなって。仮にじゃあカトリック教会潰そみたいな人がでてきたときに対抗できない。守ってくれないから。

樋口:そうだそうだ。

深井:怖いわけです。だからゲルマン人の方にもどんどんどんどん広めていこうとするわけです。

樋口:それはなんで広めて。

深井:ゲルマン人がローマ滅してるから。

樋口:なるほど。

深井:そのゲルマン人てのが北ヨーロッパにばあっと分布している。ゲルマン的なキリスト教が今のいわゆるヨーロッパのキリスト教なんです。

樋口:だから、ゲルマン人を後ろ盾の代わりにしたってことですね、いままでの。

深井:そうそうそうそう。そういうことです。で、ここでもう一つ言いたいのは例えばいまクリスマスでもみの木とか使う。もみの木って地中海沿岸にはそんなない。

樋口:ほお。

深井:あれって、北ヨーロッパによくある木らしい。で、そういう風にようはキリスト教も実はめちゃくちゃ変遷していってる。誰の後ろ盾というか、その土地土地の人たちと結びついて。

楊:そう、信者を増やして行く。

深井:そうそう。ガリアとかもゲルマン人もキリスト教化して、逆にいうとキリスト教もゲルマン化されてるわけ。

樋口:なるほどね。面白い。

深井:今、僕たちがよく知ってるキリスト教はゲルマン化されたキリスト教だと言えます。

樋口:なるほど。

楊:だからイエスの時のキリスト教と全然変わってきてる。

深井:それはそうだよね。どの宗教でもそうだからね。

樋口:そりゃそうだね。

深井:こんだけ広範囲に広がったらそうなって行く。

楊:あと、東と西の教会って話が出たんですけど。もう一つ現象みたいなのがあって。東と西でちょっとだんだん違ってくるとお互いどっちが元祖だっていう主導権争いみたいなのが生まれてくる。

樋口:長浜ラーメンみたいな問題が。

深井:まさに元祖長浜。

楊:うちのスープが本場なんだよみたいな。そういうことが。もともとだってキリスト教って一つな訳じゃないですか。その後だんだん違ってくるのどっちが上だみたいな。そういう反目が生まれてくる。この時って東の教会の方が力がめちゃくちゃ強かった。ていうのも皇帝、東と西にだんだんと分かれていったときに、ローマ皇帝もコンスタンティノープルに移ったんです。

樋口:え。

楊:だから当時の感覚で言えば、東のキリスト教会の方が総本山、元祖なんです。西の方はすごく力が弱くて、さっきも深井くんもいってようにうしろだてとかも無くなってきてるので、まじどうしようかみたいな。周りからいろんな国から攻められそうだし、どうしようかと考えて、だから、西のキリスト教会もライジングしたかった。東の方がめちゃくちゃライジングしてて強くなってるのに、うちもうちょっと頑張りたい、もっとライジングしたいなという思いがあって、そこでゲルマン人がその時すごくヨーロッパで力をもってきてるので、ゲルマン人と手を結ぼうという背景があったと言われてます。

深井:もっというと、フランク王国の国王とということになります。

樋口:フランク王国。へえ。

深井:フランク王国、いろんな名詞出てきて申し訳ないんだけど、その時のローマを滅したあとにぶいぶい言わせてた人たちが誰だったかって、けっこう間空いてるけど、フランク王国の国王がいて、カール大帝という人がいるんだけど。これもいつかこの人でシリーズ作れるくらい有名な人。このカール大帝にローマ教皇は歩み寄って行くわけです。具体的になにをするかというと、彼に戴冠といって冠を被せてあげる。つまりあなたはローマ帝国の後継者だよということをローマ教皇が担保してあげるという儀式をするんです。で、当時の世界でいうところのローマ帝国ってのは、西って滅びちゃってるけど圧倒的権威なんです。それの後継者であることはある意味世界帝国の後継者であるということなんです。カール大帝は権力はもってる、めっちゃ、強いから、当時。権威が足らない。

楊:そうなんだよね。

深井:権威もあるけどちょっと足らない。

楊:宗教的な権威。

深井:宗教的な権威も足らないし、世俗的な権威もまだちょっと足らなかったと思う。そこにローマ教皇が権力はないけど権威がある状況。その状態で戴冠してあげるよってフランク王国に行く。で戴冠してあげる。

樋口:これ嬉しい。欲しい、権威。

楊:お互いの利害が一致したってことですね。

深井:なんか、よくよく調べるとどうやらカール大帝はそんなに欲しくなかったみたいですけど、けっこう半ば無理やり上げたみたい、戴冠。これがよかったんじゃないかと思う。その、やっぱりその後皇帝に戴冠する、王様に戴冠するっていう文化が出来上がっていく。

樋口:なるほど、前例になったんですね。

深井:だから、なんていうんですかね。ローマ教皇によって権力を確定してもらうみたいな状況になるわけです。これはすごく強いですよね。ローマ教皇からすると。

樋口:お墨付きを発行できるようになったんですね。

深井:そうそう。お墨付きを発行できるようになる。それと同時に純粋に信仰を広めていってる、キリスト教は。すごく布教するの強いんで。純粋にキリスト教を広めていって。民衆の間に徐々に徐々にさっき言ったゲルマン化されたキリスト教がどんどんどんどん広がって行く。ていう状況も同時にあります。だから、ボトムアップとトップダウンをどっちも同時並行で攻めていってる状態です。

樋口:いい感じだ。

深井:で、ええと、そうやってフランク王国の後ろ盾を得ながらビザンツ帝国側のキリスト教会ていうのは、ずっとビザンツ皇帝から保護を受けてます。仲が悪い、この西と東のローマの。ローマとコンスタンティノープルの司教の二人が。すごいずっと仲が悪くて。5世紀くらいかずっと疎遠になってたんだけど、いよいよ1054年くらいになったら西暦。お互いに破門しあうくらい仲が悪くなって行く。

樋口:うわ。溝が深まる。

深井:めちゃくちゃ溝が深まってお互い破門しあって。どっちともお前は正当じゃないんだという話をして。むしろキリスト教徒でさえないんだという話をして。破門てそういうことだから。それで決裂するんです。決裂しつつも西ローマ教会ってのは西キリスト教会ですね、てのは徐々に徐々に世俗権力と結びついていって、フランク王国のカール大帝とかと結びついていって、その後でてきた神聖ローマ帝国って国がこの後できる。その神聖ローマ帝国の創始者といわれてるオットー一世という人がいるんですけど、この人にも戴冠とかをしてあげるんです。そうやってちょっとずつ世俗権力と結びついてちゃんと後ろ盾を渡しながらカトリック教会はちゃんと力を蓄えて行くんです。なんで神聖ローマ帝国みたいな名前なのかってのも、神聖ってのはホーリーてこと、宗教権威を使ってるってことです。

樋口:そうかそうか。神聖って新しく生まれるじゃなくて、神に聖て書いて。

深井:そうですそうです。神聖ローマ。ローマの権威とローマ教会の権威を使って帝国として成り立たせてるから、だから神聖ローマ帝国って名前なわけです。

樋口:はいはい。

深井:これはローマ帝国とは別の国なんですけど、後継の国として権威を借りて作られて国で。今の主にはドイツのあたりにあった中世ヨーロッパの国ですね。

樋口:はい。

深井:はい。で、この後に当然そうなるだろうということですけど。ローマ教皇の権力がそうやって確立されていく。一回後ろ盾なくして困ってたけど、うまい具合世俗権力の人たちに、これ、言い方カトリックの人に怒られるだろうけどね。うまい具合に接近した、ちゃんと。じゃないとキリスト教布教するための組織維持できないから。彼らも。

楊:お金も要るし。

深井:そうそう、お金も要るし。組織も必要だから。それを担保するためにも頑張ったと思う。それで、そうやって接近していって獲得していって。そうすると世俗の権力も手に入れて行く。聖なる権力というか信仰という部分の管轄だけじゃなくて、単純に王様認定して上げますてのは世俗権力なんです。それを手に入れて行くと今度は世俗権力とコンフリクトするわけです。喧嘩し始める、その王様とか皇帝と。それを叙任権闘争という。一つ言い忘れとった、キリスト教がゲルマンに広がって行くときに、ゲルマンというか北ヨーロッパに広まっていくときに、もう一つじつはでかい推進力があったんです。

樋口:はいはい。

深井:それ何かというと、中世ヨーロッパってめちゃくちゃすぐ人が死ぬ。

樋口:え、え。

深井:めちゃくちゃすぐ人が死ぬんです。例えば新生児の何割だったかな、もう、なんか本当5割か6割くらいは亡くなる。子供産んでも半分以上亡くなる。で、周りの人たちもどんどん病気で死んで行くし。あと、ペスト初期とか。ペスト中期と後期は逆にカトリック教会の権力を削いでいったんだけど。初期の方でどんどん人が死ぬみたいなときに、死んだ後どうなるんだろうとみんな思う。

樋口:怖い。

深井:そう。こんだけ死が身近にあると自分も死ぬかもしれない。すぐ。そこが現代人と全く感覚が違ってて、自分もいつ死ぬかわからない。隣の友達も死んだ、親戚も死んだし、自分の子供も死んだみたいなときに。じゃあ彼らは死んだあとどうなってるんだろうって自然に人間て思うわけです。そこに一番綺麗に説明できたのがカトリック教会だったんです。だから広がったってのもでかい。

楊:そうだね。死んだ後の世界をロジカルに、しかもビジュアルでもって説明、一つの答えを民衆に与えたところが大きい。当時の人たちの関心てのはこれからどう生きるのもたくさんあったと思うけど、やっぱり死んだあと自分がどうなるんだろうっていう、死が一番大きなテーマとしてのしかかってたので。そこはやっぱり宗教が、キリスト教が入る一つの大きな理由にはなったんじゃないかなと思います。

樋口:それを与えられたら安心する。

深井:そうです。教会とか必ず天国とか地獄の絵が描いてあったりするんだけど。それは結局識字率が低いときのヨーロッパに民衆に対して死後の世界とかを伝えるためにそういうことをしてるということです。

樋口:そうかそうか。識字率が低いというのも一個あるのか。

深井:そうです。死んだあとに大事なのは救われることなんです。死んだ後どうなるんだろう。もちろん死んだ後さらに不幸な世界が待ってたらシャレにならない。そうじゃなくて、キリスト教がいってることってのは、みんなキリストの名の元に祈って救われて天国に行けるんだよって話をしてるわけです。そこがすごくヒットしてる。

樋口:嬉しいですもんね。

深井:それは王様でも皇帝でもそう。王様も皇帝もいつ死ぬかわからない。別にお金持ってて権力を持ってるからと言って、病気から、当時医学が発達してないヨーロッパで病気から守られるわけでもないし。王様だって戦争行くわけだから、戦争で死ぬかもしれない。じゃあ死んだあとに今の世俗権力全部手放してどうなるんだという話になる。そこにすごくみんなが納得行く説明をできてるのがカトリック教会だったというのがすごく大きいです。いうの忘れてました。それが一番でかい。

樋口:めちゃくちゃわかります。それは。

深井:だからめちゃくちゃがって広がっていったし。しかも世俗の権力者とも繋がっていったカトリック教会がどんどんどんどん強くなっていった。でも強くなっていくと今度はいわゆる王様たちとコンフリクトしていく。

樋口:そうね、そこだ。

深井:そう。そうなんです。そこで叙任権闘争ていうのが出てくる。

樋口:ほおほお。

深井:ここ、そんな詳しくやらないけど、叙任権闘争てのは一言でいうとなにかというと、各地にさっきヤンヤンが言ったみたいにエリアマネージャーみたいな形で本当に細分化した地域に対して司教を派遣してる。司祭とか司教を派遣してる、教会が。だから官僚組織にすごく近いというか官僚組織なんです。知事とか市長とかを派遣してる感覚と全く一緒なんです。

樋口:なるほど。

深井:そういうのをばんばんばんばん派遣していって、そこを統治というかそこをキリスト教で管轄するという考え方でやってるわけなんですけど。そのいわゆる市長とか知事にあたる司祭とか司教の人たちですよね。

樋口:うん。うん。

深井:この人たちを誰が任命するのかっていう問題が出てくるんです。

樋口:ううん。

深井:ローマ教会は自分で任命したい。だって自分たちの官僚組織の配下にいる人たちなわけだから、当然自分たちの手のかかった人たちを任命したい。

樋口:そうだ。

深井:だけど王様からすると自分の国中にいる人なのになんで自分で任命できないんだって話になってくる。

樋口:それもそうだ。

深井:ここでぶつかる。

樋口:そりゃぶつかる。

深井:ぶつかっていろんな戦いをする、この人たちが。教皇と王様たちが、王様、皇帝たちが。いろんなことが起こる。詳しくいうと終わっちゃうんでとばしますけど、カノッサの屈辱っていって、教皇の前でハインリヒ4世ていう神聖ローマ皇帝が土下座するみたいなことが起こったりとか。このときにはローマ皇帝が破門された。お前はもうキリスト教徒じゃないんだと言われた。ローマ教皇に。

楊:それはつまり天国に行けないということです。

深井:そう、もう救われないんだという話。もっとヤバいのが、実はぼくは冒頭に信仰を前提とした社会システムと信頼関係を築いてるという話をした。だからキリスト教徒じゃなくなったらもうその人のいうことを聞かなくていい。配下の人たちが。だから皇帝なのにキリスト教徒じゃなくなった時点でこの当時って封建制っていって、王様とその配下が皇帝と配下が契約をむすんでる。領土を与えてあげるかわりに軍隊出しますとか、そういう契約を結んでるんだけど、その契約が反故になる。破門されると、無効になる、キリスト教徒じゃないから。人間じゃないから。キリスト教徒じゃないってことは人間じゃないから。

樋口:人権剥奪レベル。

深井:だって人権ていう概念が生まれる前だから。

楊:そうですそうです。

深井:そう、人権という概念が生まれる前に人権ぽい立ち位置だったのはキリスト教徒かどうかだったんです。キリスト教世界では。

楊:そうです。

樋口:ほお。

深井:そう、その人権がなくなっちゃったから、全部瓦解する。だから彼は土下座をしにいかなくては行けなかった。そう。ローマ教皇に楯突いてみたものの全然だめだった。

樋口:なるほど。

楊:あらゆる社会関係とかさっき深井くんもいったように契約とかは全てキリスト教の共同体が前提なんです。キリスト教じゃないてことは全ての社会関係が解除されるので、借金を踏み倒されようが殺されようが誰も責任取らなくていい。すごい乱暴なことを言えば。

深井:そもそも法律保護から外れたりするんです。

楊:だから人権ていう概念は当時はなかったけど。仮に人権みたいな権利があるとすれば、それはキリスト教の共同体のメンバーであることが大前提なんです。

深井:そうなんです。今の補足だけど、これのせいでたぶんね、結局20分に収まらないんだけど。今の僕たちは、例えば所有権というものがあって、僕たちの所有権を守るために実は社会があるんだ、政府があるんだという考え方が根底の根底の根底くらいに実は存在してる社会に我々は生きてると言える。そういう概念が生まれる前の世界なんで。じゃあなんのために政府があるのかということがそもそも違う。で、このときってのは信仰してるメンバーである限りにおいてはいろんな権利を付与しているし、信仰の中でいろんな序列がついているし、例えばフランスの絶対王政には王権神授説という考え方があるけど、あれも結局どういうことかというと信仰を元にしてるわけ。ようは、王様は神様に任命されて権利を渡されてるから彼は治める権利があるんだという考え方なんです。今と全然違う。

樋口:全然違いますね。

深井:上の人が上の人である理由の説明の仕方が信仰なんです。基本的に。

楊:確かにそうだな。

深井:僕たちはそういう社会の作り方をしてないというかそこから脱却して今の社会を作ったんだけど。そうなる前ってなんかしらんけど上にいるよね、まず人が。この人なんで上にいる権利があるんだっけていうことを説明するためにいろんな理論頑張って作るときに信仰を元にして作った。ヨーロッパ世界って。だからそれが全部の基礎になってる。

樋口:なるほど。天皇やったときに初めてここに天孫降臨したところか血が繋がってるということを権威の拠り所にしたってのにちょっと似てるかもしれない。

深井:そうですそうです。

楊:中国の皇帝もそう。天から。天命を授けられて。

深井:権利を持ってることを説明するってすごい難しい。

楊:たしかにな。

深井:しかもヒエラルキー構造がすでに出来上がってるから、みんな平等ですとかいったらぶっ壊れる。じゃあなんで自分が上にいてあなたが下にいるかってどうやって説明するかってすごい難しい。

楊:確かに。納得させないと行けない。

深井:そう。納得させないと行けない。納得しない人は反乱するから。それはコストが高い。だから、信仰を元に社会を作っていった。中世ヨーロッパ。ローマ帝国は全然違った。思い出して欲しい。ローマ帝国全然違った。信仰を元にしてないよね。

樋口:はいはい、なかったですね。

深井:あれはコンスルっていう人いて、みたいな、その人たちは交代するから誰かが権力を握ることはなくてね、みたいな。

樋口:元老院。

深井:だけど、カエサルが覆して皇帝みたいなポジションを作っちゃって、そこからローマ帝国が皇帝政になっていきます。それが瓦解したあとの世界で、何が起こったかってのは、信仰を元にして社会を作り直したんです。

樋口:へえ。なるほどね。なんか、こう、なんていうんですか。論理的な文化的な文化レベルでいうと下がってる感じもしなくもない。

深井:下がってると思うのは今僕たちの社会がそのタイプをとってないからだけだと。

樋口:そういうことか。

深井:単純にタイプの違う世界が存在していて。

樋口:おお。

深井:その、僕たちの今の社会というのはまさにこの中世のキリスト教社会に対するアンチテーゼとして出てきた社会だったので。だからそういうふうに感じるんです。

楊:それはフランス革命とかでもやった。

深井:そうそう。その王権神授説に対してそんなわけないだろということを言ったのがフランス革命だった。

樋口:なるほど。

深井:その前段階がここだった。

楊:社会秩序の説明の仕方の違いが時代によって変わってくる。

深井:秩序の説明の仕方がこの時は信仰だったので、そうやってカノッサの屈辱みたいなことも起こる。とはいえ、王様は実際の権力とか軍隊とかをもってるからそれで逆に逆転して、ローマ皇帝を捕らえるみたいなことも起こるし。ローマ教皇ですね。ローマ教皇を捕らえるみたいなことも起こりますし。あとは十字軍の派遣するということも起こります。これも信仰を元にしてる社会だから起こったわけです。十字軍が。じゃないと意味がわからない。だって、なんでローマ教皇が十字軍てのは当時イスラーム系がめちゃくちゃ盛り上がってきて。これもオスマントルコ帝国のときにやった。イスラム系が盛り上がってきて、その盛り上がったイスラームに対して対抗して聖地を取り戻したかった、エルサレムを。エルサレムを取り戻すためにローマ教皇が集合させる、軍隊を、行こうぜって。でも、なんで行こうぜと言われてみんな行くんかってはなしなんです。なぜ行くのかというと信仰を元にした社会形成をしていて、全ての権利秩序が全部信仰を元に組成されてるから。その糾合の仕方はとてもパワーがあるし、他にもいろんな理由はあるんだけど、当時土地が足りなくなってたとか。いろんな理由はあるけど、そこはベースとして存在する。

楊:そうだね。後は普通にいったら救われる。

深井:そうそう。いったら救われる。十字軍に参加すると。めちゃくちゃいいことなんだよ、それは。ていうのと、あとは十字軍が成功するんです、第一次は。最初の。それで教皇権力が上がったりとか。だから上がったり下がったり上がったり下がったりしてるんだけど。教皇権力ってどんどんどんどん上がっていったんです。で、ついに教皇至上権という権力を確立するに至ります。

樋口:至上、おお。最高。

深井:ここが僕が冒頭にいった質の違う権力ですね。世俗権力と。

樋口:はいはい。

深井:これについての説明を次回しますね。

樋口:なるほど。ああ、ここが質感というところの話になるんですね。

楊:そうですね。ヨーロッパは王様と世俗権力と教皇二つの二重権力によって治められてたというざっくりとしたイメージが持てればいいと思います。

樋口:なるほどですね。いやあなんかやっぱり歴史見て行く上で今と感覚全く違うという前提がないと全く理解できないですね、確かに。

深井:その感覚を伝えたかったし。十字軍の説明するときとかにオスマン、オスマンじゃないけどイスラームの説明ないと意味わからない、感覚として。彼らがどれくらい追い詰められてたかってはなしをした、イスラムのときに。

樋口:ありましたね。

深井:だから、すごいそうやって関連するよね。そして、もっかい同じ事言うけど、なんで信仰を元にした社会の形成が始まったかてのは、西ヨーロッパは王権が弱かったからですよね。ローマ帝国がなくなったあとに、それを統べる人がいなかったんです。ちょっと弱かったんです統べる人も、だから権威を借りないといけなかった。そこで信仰の権威を使ったし、キリスト教はめちゃくちゃバンバン人が死ぬ社会の中でちゃんと死後の世界を説明することによってがんがん広まっていったわけ。だから民衆にも広がってる。あとは権力を持ってる人にとっても権威が欲しいから、確かに戴冠とかしてもらえると嬉しい。こういう複合的な要因が重なって中世ヨーロッパは信仰を元にした社会秩序を作ると言う状態に突入していくんです。

樋口:なるほどね、いやあ、面白い。聞けば聞くほど今の日本社会と全然違って相当面白い。

楊:違いますね。教会のことを聞いとけば天国に行けますから。

樋口:全然違うますもんね。

深井:これを崩し始めるのが宗教改革なんです。

樋口:なるほど。

深井:はい。

樋口:いやあ、一旦じゃあ今日はこんな感じですかね。

深井:はい。

楊:はい。

樋口:はい。いやあ、ちょっとじゃあこの後どうなって行くか気になるところですが、続きは次回と言う事で。いったんありがとうございました。

深井:はい。

楊:ありがとうございます。

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