#145 元老院派独裁官スッラの大粛清 〜民衆派カエサルの危機〜

【今回の内容】遂にカエサル!/ローマ人の命名法/貴族の教育/出世が誉れのこの時代/男を見せろカエサル!/すごい!ローマの街並み/首/婚約の破棄・結婚/政略結婚の行く末/ リスクテイクのカエサル/素敵のカエサル/亡命のカエサル/ヤンキーの考え方/カエサルの中の複数のマリウス

樋口:はい、ええ、前回まではローマ帝国の特徴や制度をお聞きしましたけども、ついにカエサル登場でございます。

深井:そうですね。ガイウス・ユリウス・カエサルていう三つ名前がありますけど、ガイウスがファーストネーム、ユリウスが氏族名、カエサルが家族の名前という感じですね。実はローマ人て祖父も父も息子もみんな同じ名前なんで。お父さんもガイウス・ユリウス・カエサル、おじいさんもガイウス・ユリウス・カエサルです。

樋口:え。

楊:どうやって見分けるんだっけ。

深井:見分けない。見分けないというか全部ガイウス・ユリウス・カエサル。全員がガイウス・ユリウス・カエサル、です。彼の先祖。

樋口:はいはい。

深井:で、ユリウス氏族ってのがすごく名家なんです。

楊:けっこう古い歴史があるみたい。

深井:貴族って今までいってたけど、これ実はパトリキっていう、貴族のこと。パトリキっていう。パトリキ出身で、共和制初期からローマにいる古い貴族のうちの一人。この、数百年の歴史の中でだいぶ消滅した、パトリキって何個か。それでも生き残った氏族ですね。

楊:たぶん征服された先の子孫だったとも言われてます。

樋口:うんうん。

深井:あと、そうだ。もう一つ言忘れたけど、女の人の名前の付け方は、この氏族名にアをつける。だからユリウス氏族の女の人はユリアなんですね。

樋口:へえ。

深井:全員。

樋口:全員、まあまあそうなるわな。

深井:全員ユリア。

楊:ポンペイウスの女性がポンペイアだよね。

深井:そうそう、ポンペイア。だから、カエサルって女兄弟二人いるけど、二人ともユリアなんだよ。

樋口:え。

深井:全員ユリア。

樋口:むずい。

楊:家の中でどうやって呼び分けるんかね。

深井:ユリア1、ユリア2で。

樋口:いやいや。

深井:まじで。

楊:エバンゲリオン。

深井:まじでユリア1ユリア2で呼び分けてる。

樋口:ええ、もう囚人番号。

深井:ひどいよね。

樋口:ひどい。

深井:ひどい。

樋口:知らんかった。

深井:ひどい感覚はないと思うけど。

樋口:まあまあ。

楊:ある意味すごく彼らの合理性が出てる、ナンバリングするんだ。

深井:個人を、男も個人を大切にされてない。だって全員ガイウス・ユリウス・カエサルだから。三世代生きてたら全員同じ名前。

樋口:すげえな。

深井:結局その家の男か女かだけだってことです。

楊:家系重視。

樋口:ファイル名みたいな付け方。

楊:面白い、確かに。

深井:本当ね。日本とかでも役職名とかで呼んでるのとあんまかわんないです。

樋口:なるほど。

深井:ていうのがありまして。その中のすごく高貴な生まれなんだけどあんまり活躍はしてない。どうやらカエサルが生まれる50年60年くらいまえに親戚がコンスルしてるぽい。それ以外にはあんまりコンスルとかほぼいないみたいで。

楊:そこまでぱっとはしてない家系です。父方はね。

深井:父方はね。母方は平民系だよね。の、お金持ち系の家ですね。祖父のガイウス・ユリウス・カエサルはおそらく法務官まで務めてるんじゃないか。父ガイウスはおそらく財務官クゥアエストルまで務めてる、一番下のやつ。おじいさんの方がまだいいけど、それくらいの政務官は務めてる。母がアウレリアという人、たぶんアウレリウス氏族だよね。この人もけっこう有名なんですけど、お母さん。お父さんが早く亡くなってて、16歳くらいの時に亡くなってて、カエサルが。そのあとずっと母に育てられてる。けっこう母の影響が強いみたいなね。

楊:母の祖父も父もコンスルだった。

深井:母の父と、そう。母方はコンスル家系。コンスルをたくさん出してる家系。

樋口:すげえ家系。

深井:ていう感じの家に生まれた。だからスタート地点はあんま高くない。名家だけど、実力はそんなないですみたいな。サラブレットではない。

様:そうそう。

樋口:うん。

深井:カエサルの幼少期って実はほぼわかってない。けれども、基本的に貴族ってこうやって生きてたよみたいなのが残ってるから、それに従って想像すると、まず、教育ってのは基本的に家庭で行われる。平民は学校に通ってたらしい。家庭教師というかお父さんが教えてくれるんだって、いろいろ。あとは家庭教師をよんだりとか。できれば、一番いいのはギリシャ人の家庭教師というのが一番ブランド力が高い。教育の発祥地みたいなところですから、哲学とか。家で教育というのを受けて、その教育を受けてる姿を平民にすごい見せるらしい。それも一番最初から貴族ってのは元老院に入るための出世レースに子供のころから突入してるってことですね。

樋口:なるほど。

深井:それで、どれくらい何ができるというのを平民に見てもらいながら選挙に突入するみたいな感じみたいなんですけども。ローマ人の特徴のところでいった父祖の威風みたいなのを当然カエサルもたくさん学ぶ、そんなになかった家だったけども。

楊:カエサルの祖先は神様だった。というふうに自分たちもいってました。

深井:一番最初はね。だからこそのパトリキ、貴族なんだけども。ここで、色々ローマ人としての自尊心であるとか、共和制の一員であるという誇りであるとか、自分が貴族であるという誇りであるとか、とにかくローマ人としての誇りをものすごく叩き込まれる。あとは自分のプライドもめっちゃ育てられる、ローマ人て。自分の名前を上げること、ひいては自分の名前って家の名前と一緒だから家の名前を上げること。これはすごく強烈に。

楊:だから出世をするのが誉なんですね。

樋口:ほお。

深井:そう、で、出世して自分の家の名前を上げること。その流れを作ることってのがローマ人の一つの目的じゃないですけどみんなやってる。それから外れてる人っていない。

楊:男らしさを、日本の武家社会のみたいに、男らしさすごく重視するんです。逆に女ぽいとか女々しいとかあまり志がないとかはすごく嫌われます。

樋口:なるほど。

深井:唯一の男子、自分が。

樋口:三兄弟で。

楊:確かそう。

深井:唯一の、たぶんそれ以外にも子供生まれてると思うけどたぶん亡くなってる。唯一の男子として育ってるんで、ユリウス・カエサル家をなんとかするという感覚はあったと思います。さっき家庭教師の話して一回とんじゃったけど、元戻ると、ギリシャ人の家庭教師ではない人が家庭教師としてついてる。この人から基本的にローマ貴族ってギリシャ語とラテン語とどっちも学ぶんです。古典を勉強しながらそれを学びます。あとローマ表法、十二表法を暗記します。

楊:法律。

深井:あとは肉体的な訓練というのもやります。一般教養としての肉体訓練、体育と一緒。乗馬はすごくうまかったらしい、カエサルは。

楊:鎧を使わずに乗れたらしいね。

深井:当時はね。

楊:なかったか。

深井:たぶんまだない。で。生まれたところがスラムまではいかんけどスラムぽいところ。

楊:そう、あんまり一等地には住んでなかった。けっこう外れの郊外のところの。当時ローマって金持ちの人は一戸建てとかに住んでたけど、基本的にアパート住まい。アパート住まいでしかもローマ中心てすごく都市化してたのでアパート一つ一つの部屋もけっこう狭い。地価も家賃もたかかった。彼の家あんま金なかったから。そんなにいいところには住んでなくて、周りにいろんなホームレスとかあまり金持ってない人たちがいろいろ多分うろついてた。それをたぶん見てたかもしれない。いろんな立場の人。

深井:いろんな人に会ってる、ここで。ローマの街並みみたいなのみなさんもググってほしい。驚愕する凄さです。

樋口:何がどうすごいんですか。

深井:とてもじゃないけど2000年以上前の街に見えない。まじでそうとう凄い。4階建とか5階建とか普通にあるからね。

樋口:へえ、当時。

深井:競技場とか普通にありますし。

楊:何万人入る競技場、でかい。

深井:めっちゃすごいよ。

樋口:ふうん。

深井:4階建とかの上の方に貧乏な人が住む。水道が通ってないんで、上は。

樋口:ああ。

深井:でも逆にいったら一階は水道が通ってる。水洗トイレだし。風呂とかあるし。

楊:公衆浴場。

深井:ローマってめっちゃすごい街なんだけど。この中心街に住んでるんだけど、この中心街の家賃が異常に高いんで。ほんとうやばいくらい高いので、それスラムではないけどそんなにいいところじゃないところに住んでたのがカエサル。住んでる場所でその人たちの財政力がすぐわかります、ローマ人の。

楊:抱えてる奴隷の数とかね。

樋口:うんうん。

深井:そう。で、こういうところで生まれて教育を受けて、家庭教師に育てられていく。10代のカエサルが生きた時代はめちゃくちゃ混乱してた時代。さっきの、前の回でいった内戦の嵐ですよね。流血事件で人が殺されまくる。

楊:粛清、スッラの粛清とかね。

深井:そうそう。なんなら自分のおじさんであるマリウスが自分の違うおじさんを殺すということもやってますし。ひどい状態なわけですね。

楊:そう、おじさんが、おじさんも政治家だった。政治闘争に負けて首を切られて元老院の演台の上に首が置かれた。晒された。それもカエサルは10代のころに見てるはずです。おそらく。

深井:見てると思う、見ない方がむずい。

楊:あと、いろんな粛清に合わせていろんな人の首が切られる、その首が広場で晒されてるのをおそらく小さい時からみてるはず。

樋口:荒れてますね。

深井:カエサルが14歳くらいのときにマリウスが死んで、さっきいったスッラって人が今度は権力を握って元老院派に揺れていったって話をした。16歳の時には父が突然死んじゃう。ここで一気に自分が家父長になる、後継になる、後継というか当主になる。すごい自信家だったらしい、彼は、最初から。16歳になって一年も経たないうちにずっと婚約が決まってた人の婚約を破棄します。破棄して、これちょっとまた新しい人の名前出してあれだけど、キンナっていう人の娘コルネリアさんと結婚する。このキンナってなにかっていったら、マリウス側の民衆派ですね。マリウスと同じ民衆派閥の人なんです。この人がマリウスとまずキンナが仲良い。マリウス死んじゃってるけど、多分この人がマリウスの親戚だから、カエサルが。カエサルがマリウスの親戚だからという理由でキンナはカエサルに目をかけていて、キンナが自分の娘コルネリアとカエサルを結婚させようとするわけです。その結婚が持ち上がったからもともと決まってた結婚をやめたんです。

樋口:はいはい。

深井:やめたか離婚してる。どっちかわからないけど、なんで、キンナがカエサルを評価してそんな自分の娘を嫁がせるレベルなのかってのは、実はわかってない。まあ、もしかしたらこの時点で民衆派の筋のいい人間としてみられてたのかもしれないし、

楊:そうだね。

深井:そこまで考えてないのかもしれない。

樋口:なるほど。

深井:この結婚が何を意味するかってところなんですけど。ローマって基本的に政略結婚なんです。この政略結婚が何を意味するかなんですけど、この結婚することによってカエサルは実は一つ職につける予定だったんです。

楊:公職。

深井:公職に。もう17ってちょう若い時に。これは何かというと、フラメンディアリスっていう、なんていうんですかね。

楊:神官。

深井:神官、宗教系の職。宗教系の職に就く予定でカエサルはこれに推薦してもらってた、キンナとかに。

楊:だから政界への第一歩になるはずだったんです。

樋口:はいはい、いいじゃないですか。

深井:ただ、すごく特殊な仕事で、普通の政界進出とは違う感じで。これになっちゃうと、なんていうか、コンスルとかになりづらい、めちゃくちゃ。そもそも軍隊を率いちゃだめだし、なんなら軍隊をみることさえしちゃだめ。なんで、この宗教系のルートに入ってしまうと出世はするんだけど、

楊:限定される。

深井:限定されて、実際にカエサルがやったようなことはできなかったと思われるけど。運がいいのかわるいのか、結局彼はならなかった。なぜならなかったのかというと、カエサルはスッラにコルネリアとの離婚を言い渡されるんです。コルネリアと別れろといわれちゃう。

樋口:あら、なんで。

楊:当時のスッラって独裁権力を持ってて、いろんな人を粛清していた。カエサルが属してた、少なくともスッラからみてカエサルは違う自分と違う派閥に属してたので、お前その離婚はちょっときろよみたいにカエサルに言う、スッラがいう。

深井:これ、意味が伝わるかな。確かに複雑なんです。スッラは元老院派、マリウスとキンナは、民衆派。

樋口:ですね。おっけ。

深井:カエサルが結婚したのは民衆派のキンナの娘。そのコネを利用してフラメンディアリスになろうとしてた。だけども、このフラメンディアリスになるというのもダメになったし、なんならコルネリアとキンナの娘コルネリアと離婚しろっていうのもスッラから言い渡される。スッラはその時カエサルだけじゃなくて民衆派の人間全員を迫害してる。

樋口:そういうことか。

深井:で、殺しまくってる。

樋口:そういうことね。

深井:カエサルは殺すまではいかない、けど離婚しろと言われた。

樋口:なるほど。

楊:お前まだ若いし、まだ政界に入ってないからここは離婚すれば見逃してやるよ。

樋口: なるほど。

深井: これを拒否るんです、カエサルが。

樋口:うわお。

楊:これは頭おかしいです。

深井:ここはおかしいよね。

楊:今でいうと、北朝鮮で金正恩の命令に背くような感じですからね。普通に死にます。

樋口:へえ。

深井:なんで、ここでこんな意志を発揮してるのかよくわからない。

樋口:けったんやね。

深井:ていうか、この人は人生を通じて基本的に自分の意思を貫き通し続けてるよね。

樋口:へえ。

楊:確かに。

深井:そこに確かに打算はないのかもしれない。

楊:リスクテークが彼のサガかもしれない。

深井:持ち味だよね。なんのメリットがあるのかわからないけど。でもコルネリアとはすごく仲がいい。死ぬほど浮気してますけど、この人。

樋口:はいはいはい。

深井:それもおっけーの時代だったんで。むちゃくちゃコルネリアとすごく仲がよくて、10数年後に死別しちゃう、コルネリアが亡くなっちゃうんですけど。それまでずっといい夫婦でいるんですよね。これがあったかもね。

樋口:なるほど。

深井:ちょっとかっこいい。殺されるかもしれないけど俺は別れないといって別れない。

樋口:普通に好きだった可能性もある。

楊:確かに。

深井:好きだったかもね。

楊:普通にローマ人として考えたら納得できるような気がして。彼らは自分たちはすごく誇りをもって自尊心を持って育てられたので、これは俺の自尊心を傷つけることだから、命よりも自尊心をおれは大事にするって反対したってのもあるかもしれない。武士だよね。

深井:そこがなおさら強い人、カエサルが。この時ちなみに結婚する時って妻がお金を持ってきてくれる。そのお金も没収されてる。

楊:そうかそうか。

樋口:ふうん。

深井:お金も没収されてるのに離婚しないというところも、きっとカエサルがいきなりかっこいいポイントですよね。

樋口:なるほど。素敵な話じゃないですか

深井:普通に素敵な話。

樋口:いい話。

深井:ですね。

楊:でも殺されかける。

深井:殺されかけるんです。これで、要注意人物リストに入ってしまうので。カエサルはこの若さで亡命します。

樋口:あらあ、逃げるんだ。

深井:殺されちゃうかもしれないんで逃げる。次回、この次にいきたいと思う。次回はこの逃げるところからはなしたいと思います。

樋口:いやあ、すでにいろんなドラマチックなことが起こってる。

深井:いきなり英雄ぽいでしょ。

樋口:確かに。生まれはそういうところで生まれて、結婚を破棄して、おれはこの妻と、みたいな。

深井:おじさんのつてで凄い出世の糸口みたいな。みつけるんだけど、それをけってでも妻とは別れない。

樋口:かっこいい。

深井:それが結局彼が最終的にコンスルとかディクタトールになっていく。これになって、これのフラメンディアリスになってたらなれてないから、戦争行けないから。

楊:分かれ道ってわからない。

深井:わからないよね。本当にわからないと思う。

楊:このスッラにたてついたことが結構僕は彼の中ではでかい体験かな、原体験かなと思ってて。ようは雲の上の独裁者なんです。それにおれが楯突いて、生き残ってしまった。おれ死なないかもしれない、なにをやっても。そこまでの自信がブーストしたかもしれない。

深井:あると思う。

樋口:ヤンキーみたいな考え方。

楊:そうなんですか。

樋口:親や先生とかの権力とかどうでもいい、みたいな。

楊:確かに。

深井:でも、この成功体験なのかも、彼の中で。

楊:そうだろうね。

深井:スッラほどの、本当に権勢を誇ってる、ディクタトールですから。危ないんで。全権力集中してる人の、しかも離婚、死ねとか言われてるわけじゃない。

楊:妥協できる余地はある。

深井:全然妥協してよさそうなところを、やらないっていってやらない、みたいな。

楊:親戚とかからすごい嘆願されて助けられて、やっと生き残ったって感じなんだけど。

深井:そうそう。親戚がお願いする。スッラにカエサルの親戚がお願いする。若いし、殺すのはやめてあげてって。スッラは殺そうとした、離婚を拒否したんで。本当殺すのやめてあげて。って言ったら、これ多分史実じゃないけど、スッラが言ったのが、お前らはカエサルの中に複数のマリウスがいることがわからないのか。って。つまりこいつはカエサルって人はまだすごく若くて幼く見えるけど、マリウスがたくさんいるくらいやばいポテンシャルを秘めてて、自分の敵になるんじゃないかみたいなこと言ったと言われてる。たぶん嘘。

樋口:へえ。なるほどね。

深井:てことで、次回亡命して、いきなり波乱きますね。いきなり波乱です。

樋口:いいですね。いやあ、ちょっと、ぐっと惹かれました、カエサルにいきなり。ということで次回をお楽しみに。

深井:ありがとうございます。

楊:ありがとうございます。

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