#127 奴隷なのにエリート!? 日本人が知らないオスマン帝国の仕組み

【今回の内容】今回はオスマン帝国の興りとムハンマド以降のイスラームの状況、そしてキリスト教世界に衝撃を与えた事件「コンスタンティノープル陥落」まで語り合いました。 600年にも及ぶ歴史はあまりに膨大。 今回だけで語り切れませんが、ぜひご視聴ください。

樋口:はい、ええ、前回まではバヤズィトが死んでからオスマンが立て直すってところまでの話をお聞きしたんですけど。

深井:そうですね。けっこう波乱万丈ってことですね。

樋口:いやあ、ダイナミックなところですよね。

深井:このあとついにムラト2世になった次にメフメト2世ていう有名な人出てくるんだけど。その前にね、もう少しちょっとオスマンの制度について言っておきたいことがあって。

樋口:はいはい。

深井:デヴシルメっていう制度があるんですよ。

樋口:デヴシルメ。

深井:さっきイェニチェリの話の時に戦争孤児を徴集したっていう話したじゃないですか。

樋口:うんうん。

深井:でも、戦争がない時って戦争孤児いないんで。どうするってなる。

樋口:たしかに。

深井:あと、奴隷にできるってことは異民族の人たちなんですよ。異民族の人たちを徴集できないようになっていくと人材供給が止まってしまう。この人材供給が止まったら困るよねってことで導入された制度がこのデヴシルメっていう制度。これは戦争孤児に関わらずですね、キリスト教徒の少年を徴用するっていう。異教徒の少年を購入することになるのかな。

楊:そうそうそう。

深井:購入をして、そこから人材供給をしていく。

楊:そうですね。誘拐拉致もあったみたいですけどね。

樋口:へえ、なるほど。

深井:本人たちも入りたいという気持ちがあって。最後なれるのが大宰相だったりするわけだから、めちゃくちゃ出世するわけじゃん、オスマン帝国の中で。そこの入り口だから、しかも基本的にエリートなんですよ、この人たちって、デヴシルメで徴集される人たちってのは。

楊:そうそうそう。

深井:で、顔がよくて体が丈夫な少年てのが選ばれて。これが奴隷として、スルタンの奴隷ね、として徴用されます。。

樋口:そこ顔関係あるの面白い。

深井:顔関係あります。イェニチェリはイケメンしかなれなかったって。

樋口:へえ。

深井:鷹鳥屋さんも言ってました。

樋口:へえ。

深井:まだ鷹取屋さんこの回で出てないわ。

樋口:のちにね

深井:のちに出ます。意味わかんないと思いますけど。

樋口:番外編でね。

深井:はい。

樋口:はい。

深井:で、ムスリムに改宗させて、トルコ人の農村に住まわせてトルコ語を学ばせる。その中で優秀な人っていうのは宮廷で官僚になっていきます。それに次ぐ次の人たちってのがイェニチェリとか騎兵隊とかに入っていきます。

楊:女性だったらね、運が良ければハーレムに入って一生安泰とか、そういうキャリアプランもありますからね。

深井:女性奴隷はそういうルートがありますね。少年奴隷はスルタンのそばに仕える小姓みたいなことができる。小姓を経て大人になると州総督とかいう要職につくこともできたりして。

樋口:州の総督。

深井:そうそうそう。ある行政区の総督ってことです。だから知事ですよね。知事とかになれる。知事とかになってその中でもさらに優秀だったら宰相とか大宰相とかになる。スルタンのそばにいるってことはスルタンの目にとまったら一気に出世できるってことだから。気に入られたらね。それもすごい超出世ルートなわけです。このデヴシルメていう制度によってオスマン帝国っていうのはかなり安定的に利害関係のない、さっきイェニチェリのところで話しましたけど、外戚がいない、要は親戚のない身寄りのない地盤も持ってない、後ろ盾も持ってないという優秀な人材を供給してスルタンの直属の奴隷としてその人たちを中央の政治の中にばんばんばんばん入れていくと。

楊:ガバナンスがきくようになるよね。

深井:超ガバナンスがきく。

樋口:なるほど。

深井:奴隷なんで、司法とかがイスラム法で決まってるみたいな話したけど、そういう手順も踏まなくてよくて。処刑できたりするし。

樋口:なんかあったら。

深井:はい。財産を没収することも可能なわけ。そこが奴隷チックなんだけど。ここでやっとちょっとイスラームの奴隷について伝えたいと思います。とは言え、僕たちが想像するような奴隷とちょっと違います。当然エリートになってる時点で違うじゃないですか。奴隷がエリートになるってどういうことなんだろう、みたいな。

楊:黒人奴隷とは全然違う。

深井:全然違います。

深井:これはね、一番わかりやすい言い方は、スルタンの奴隷ってことはスルタンの所有物なんです。奴隷って社会階級じゃないわけ。

樋口:ん。

深井:階級じゃない。奴隷ってのは。僕たちは階級チックに捉えてるんだけど、この世界における奴隷ていうのは社会階級を示すわけじゃなくて身分を言ってるわけ。だからスルタンの所有物ですって言ってるだけ。スルタンが偉いわけだから、その所有物である奴隷も偉いんですよ、最初から。

樋口:奴隷というよりは直属というイメージが。弟子。

深井:そうですね。直属。

楊:徒弟っていう位置付けも、もしかしてちょっと語弊あるかもしれないけどわかりやすい。

深井:ただ、自由人と呼ばれる人たちとは明確に差別はされてるので。奴隷ではあるんです。さっき言ったみたいに処刑されたりとか、ていうのはありますね。

楊:特権階級ではあるんですよ。

樋口:なるほど。不思議な立ち位置ですね。なんか、権利は奪われてるけど、なんか誇りもある。

楊:そう。自分のボスがちゃんとうまくいってる限りは自分もいける。

深井:僕はこの本を読んでて非常に面白い例えなのは、未成年に近いって書いてあった。未成年て法的権利が阻害されてるじゃないですか、酒が飲めないとか。

樋口:なるほど。

深井:18禁のところに行けないとか。その一方で法的に保護されてるでしょ、それに近いって。

樋口:なるほどね。

深井:だから見方によっては、ちなみに子供って概念は近代に出てきた概念なんですけど。未成年ていう概念がね。ある意味この時の奴隷と一緒とは言わないけど、すごい未成年ていう概念も僕たちの社会では当たり前のように悪いものだと思ってないんだけど、奴隷という概念もこの人たちはたぶんそういう形で受け取ってると思います。

樋口:すげえ一気にピンときたす、それ。なるほど。

深井:はい。

樋口:はあ。

深井:で、そういう奴隷なんですけども、基本的にはさっきも言ったみたいに異教徒を奴隷にするんですね。ただデヴシルメっていうのはイスラム法では基本的に異教徒を奴隷にすることしかできないんだけど、奴隷てのは異教徒の中でも自分の支配領域の異教徒は奴隷にしてはいけないんです、本来はイスラム法では。

楊:ムスリムを奴隷にしてはいけないんだよな。

深井:ムスリムもだめだし、自分が支配してるキリスト教徒もだめ。

楊:そうかそうか。

深井:うん。人頭税とかを払ってるからってことだと思うけど。だから自分の支配下にない異教徒は奴隷にしていいんです。ていうのが本来決まってるんだけど、デヴシルメの画期的な点ていうか違う点はそれを支配領域のキリスト教徒を供給する、奴隷として供給するみたいなことをしてる。

樋口:あれ、破ってるってこと。

深井:破ってるっていったら破ってますね。

樋口:へえ

楊:そういう緩さもオスマン帝国にはあるんですよ。ちょいユルな。

樋口:ほお

深井:そういうデヴシルメ制の中で、本来であればオスマンの中のキリスト教徒はなれない奴隷になっていくんだけど。さっき言ったみたいに身分ではあるけど階層ではないので、奴隷が奉仕する対象てのは主人だけなんです。自由人一般全体に対して奉仕する人ではない。

楊:社会の関係から切り離されてる存在です。

深井:そうそう。貴族と一般との違いとは全然違います。で、ええと、このスルタンの家族みたいな感じで奴隷がいて、当然地位がすごく高い。一般自由人からしてもすごく地位が高い人だと思われるし、当然一般自由人も奴隷を持ってるんで、そうなるともっと低くなりますし。だから最下層の奴隷もいれば最上層にいる奴隷もいる。だから全然意味違いますよね。

樋口:なんか違うんですね。

深井:いろんな奴隷がいるということ。

楊:普通にムスリムの金持ちの家とかも奴隷とか買ったりとかしてるんで。いろんな本当に言う通りだよね。

深井:そうそうそう。

楊:ちなみにちょっと話ずれると、奴隷ってどこから供給されるのかという話があって。当時の奴隷貿易ってめちゃくちゃ実入りのいい利益率の高いビジネスだったんですよ。

樋口:だから、売る人がいたってこと。

楊:そうそう。イタリア商人とかもばんばん奴隷貿易とかやってて。オスマン帝国とかもやってたんですけども。けっこう税収の中でのかなりの大部分の利益の割合ってのは奴隷貿易からきてるといわれてて。ていう奴隷人材マーケット、それが実はかなりヨーロッパとかオスマンの周りも含めてかなりいいビジネスだったという背景がありますよね。

深井:あとはね、奴隷の解放とかもあるんだよね。奴隷が解放されたら自由人になるんですよ。自由人てのは奴隷との対義語なんですけど。自由人の中には当然だけど昔奴隷だった自由人もいるし、先祖が奴隷だった人もいる、なんならメフメト2世のお母さんとか奴隷だし、バヤズィトのお母さんも奴隷。だからそんな感じで奴隷でも最上位の人は最上位だし、そこは何度も言うけどネックにならないところ。関係無いみたいな。

楊:そうだよね

樋口:正社員と経営者にも似てる気がするな。

深井:似てるかもしれない。

樋口:イメージですけどね。

深井:特別な絆みたいなのもあったみたい、奴隷と主人には。

楊:中には性的な絆とかもあったと言われてます。

深井:男同士でね、余裕でありますね。スルタンともあります。少年奴隷との性的なつながり。これ日本でもありますね。

楊:織田信長と森蘭丸、奴隷の関係ではないけど小姓だよね。

深井:小姓だね。

楊:小姓か。

深井:小姓との性的な関係とかもこの時代普通にありますし。女性奴隷は当たり前のように性的搾取されてるから本当に奴隷ていう感じ、今の感覚からいってもね。あの、やっぱり主人てのは殴る権利も持ってるし、殴りすぎるとだめなんだけど、ある程度殴ったりしてもいいし、性的に女性とかだと基本的に子供産ませるために女性奴隷買ったりするんで。

樋口:へえなるほど。

深井:うん、それで奴隷に産ませるみたいなこともやってたりします。奴隷って奥さんの人数にカウントされないんで。

樋口:へえ、なるほど。自分と奴隷の子供は自分の子になるんですか。

深井:普通に自分の子。

楊:認知すればですよ。

樋口:はああ。

楊:だからお母さんが奴隷でも奴隷じゃなくてもスルタンですよね、君主が自分の子供だって認知すればちゃんと正しい王子としての権利が与えられる。

樋口:てことですね。なるほど。奥さんじゃないけど自分の子になるんですね。奴隷が奥さんでもその子供は自分の子になる。

楊:そうですね。

深井:そんな感じでイスラームの奴隷ってのは全く僕たちがイメージしてる奴隷とは違う感じ。

楊:そうだよね。

深井:で、この奴隷ていう制度をすごくうまく使ってデヴシルメとかでイェニチェリを作ったりとか。宮廷とかの人材徴用てのをして国家を形成していくという。また新しい形ですよね。

樋口:そうですよね。

深井:自分たちの知ってる国とは違う形で国家形成してるっていうのが、このオスマン帝国です。

樋口:本当社会構造が違いますね。

深井:違いますね

樋口:全然違う。しかも知らないですね、日本で普通に生活してると。

深井:そうですね。ここまで聞いたみなさんは比較ができるようになってるでしょ。アメリカ奴隷と比較もできるし、黒人奴隷の話もちょっとした。あれとも比較できるだろうし、中国王朝のシステムの話したことあるっけ。

樋口:まあまあ始皇帝のシリーズで。

楊:そうだよね。

深井:宦官の話とかもちょっと出したことある。ああいうシステムとこういうオスマン帝国のシステムの違いもなんとなくわかるんじゃないかなと思う。完璧に理解はしてないだろうけど比較とかして、そういうのが出てくるとやっと、じゃあ僕たちの社会はどんな社会かってのがわかってくるんですよね。

楊:これがリベラルアーツかな。

深井:まあ教養ってやつ。

楊:そう、多様な視点で自分のすでに持っている知識とか概念を相対化してひとつのファクトに対していろんな解釈ができたり。

深井:今はまだつまみ食い的な紹介しかしてないんだけど。およそ全体感を掴むと何ができるかというと、あ、ええと、みんなに共通してこれはあるんだ、とかね。これは地域とか宗教によってここがこう違うんだ、とかね。そういうことがわかってくる。

樋口:共通点もありますもんね。

深井:ね。あるでしょ、共通点。

樋口:たとえば、拡散したあとに一本化するみたいな、そういうの。

深井:そうですね。それってどの地域でもそうだよねって話ですよね。

樋口:そうですね。あとは国のためじゃなくて自分の身分のためにやってるところは亡びやすいとか。

楊:そうですそうです。

樋口:身を守るために。

深井:そうですよね。

樋口:そういう普遍的な部分と本当に全然、僕らが普遍的と思ってる部分が全然違う社会構造だったり、未成年の扱い方、さっき言ったやつだったりとかは違う部分。

楊:違いますよね。自分が将来いい生活を送りたいために自分から奴隷市場に売られにいくってのもあるからですね。

深井:そこらへんも。

楊:そこらへんも知ってると奴隷イコール不幸て下手すると僕ら認識として持ってるんですけど。実は当時の人たちの全員とは言わないですけど、一部の人にとって奴隷ってのいうのはキャリアステップ。今の貧しい生活を抜け出す手段としても持ってたというそういう見方もできますよね。

樋口:ぼく言うかどうか迷ったんですけど、吉本入るみたいなもんかも。

深井:言ったな。

楊:奴隷制?

樋口:みんな望んで入るんですよ。望んではいります。ちゃんとお金払ってNSC。

深井:芸人になるとかも一つのそういう栄達の手段でもあり厳しい道の手段でもあるから近いっちゃ近いですね。

樋口:本当に近いです。ほとんど搾取されますから。

深井:確かに、認められてない権利ありますし。

樋口:でも、トップまで行けますから、芸能界の。

楊:なるほど〜。

深井:こういう奴隷のなり方ってのは、ちなみに宦官でも一緒なんです。中国。

樋口:へえ。

深井:中国の宦官もキャリアステップのひとつとして自分から自分の性器を切り落とすってことをやってる人たちもいるんで。

楊:でも、こっちも宦官いたよね。

深井:いるよ、オスマンに。

楊:オスマンに、黒人宦官。

深井:オスマンにも宦官いるんだけど、白人宦官もいる。

楊:そうか。

深井:いるんだけど、宦官が宦官として中国王朝のような権力獲得をしてない。中国王朝の権力獲得、宦官の権力獲得っていうのは皇后がやっぱり強いんですよ、中国って。ちなみにオスマンもそこそこ強いんだけど。オスマンの皇后ハトゥンと言うんだけど。遊牧民の皇后のことハトゥンて言うんだけど、そのハトゥンも結構強いけど、中国って皇帝がとにかくまず強い。でも皇帝が強いってことは皇帝がたとえばすごく幼い時とかどうするってなる。2歳とか5歳とかだったら、じゃあどうするかって時にお母さんが出てくるんですよ。お母さんは皇帝が偉いからその皇帝を生んだ人として偉いわけ。そうするとお母さんが偉いんだからお母さんのお父さんも偉いだろうってなって外戚も偉くなるわけ。

楊:親戚とかね。

深井:うん。こういう感じで、これ宦官の話でしたね。中国の宦官てのは皇帝じゃなくて皇后がね、皇后が唯一気の許せる勢力のひとつなわけです。外戚と宦官にしか皇后としてはリーチできなくて。官僚とかはどちらかというと皇后の敵にになることが多いわけです。

楊:そもそも直接あんまり話せないもんね。

深井:話せない。皇后は官僚と直接話してはいけなくて。だから宦官が間に入ってるわけです。間違いがあってはだめだからね。

樋口:はい。

深井:だから、そういう違いとかもここで見ていくと、ああ、社会ってこれほどの振り幅があるんだなみたいなのがわかってくると。

楊:めっちゃ楽しくなってくるな。

深井:ドライブかかってきます。

樋口:ドライブかかる。

深井:沼にはまります。

樋口:はあ、なるほど。いや面白い。

深井:で、奴隷の話はそんな感じですね。次がメフメト2世。

樋口:はいはい、ついに来たメフメト2世。

深井:はい。

樋口:有名人。

深井:有名人。僕の中でバヤズィトとメフメトすごい有名人。

楊:今回のシリーズのクライマックスを担う人物かもしれないですね。

深井:どれくらい有名かな。メッシくらい、たぶん。

楊:メッシ。

樋口:僕サッカーもよくわかんない。

深井:僕も知らないですけど。クリスティアーノ・ロナウドとメッシみたいです。

楊:だいぶ強いよ。

樋口:やばい、サッカーもオスマンもわからん、おれ。ということで。まあまあすごい1個常識がちょっと溶けた感じがします。いい意味で。柔らかくなった感じがします。

深井:はい。

楊:ありがとうございました。

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