#110 絶対服従!?サリヴァン先生の過酷なスパルタ合宿

【今回の内容】
・断固たる決意で親離れ&子離れ
・真剣勝負の2週間
・サリヴァン先生の放置プレイ
・サリヴァン式アメとムチ
・運命の日・4月5日
・water! water ! water !
・ヘレンが世界と繋がる瞬間
・初めてのkissに悶えるサリヴァン
・関心の最高潮を逃すな!サリヴァン・メソッド

樋口 前回まではサリヴァン先生がヘレン・ケラーの家庭教師になったときのお話をお聞きしていったんですけれども、今回はその続きでございます。お願いします。

楊 お願いします。

深井 サリヴァン先生がまず最初にやらないといけないと思ったのは、家の人、家族とヘレンを離さないといけないと思ったんですよ。

樋口 離す。

深井 そう。何でかというと、とにかくサリヴァンがどれだけ厳しくしても家の人が甘やかすんですよ。

樋口 なるほど。

深井 だから、わがまましたら何かしてもらえる状態というのをつくってしまうと、両親が。サリヴァンはこれを両親に言うわけ。前回も言ったけど、甘やかさないでくれと。本当にヘレンのためにならないから甘やかさないでほしいと。ヘレンのためを思うのであれば私とヘレンだけで生活をさせてくださいということでお願いをするわけです、そういう。

 離れにある小さい家があるんですけど、400メートルぐらい離れたところに。そこで2人暮らしさせてくれという話をするわけです。実際、お手伝いの黒人の少年が1人いたりするんですけどね。そこでとにかく家族は会っちゃだめですと。ただ、彼女が寝た後にこっそり見てもばれないから、こっそり見るのはオーケーだけど、話し掛けたりしちゃだめですという話をしてお願いをする。

 お父さんは、まあ、そうだよねとなるんですよ。お母さんは、どっちだったかな、どっちかだったんですけど、お父さんとお母さんどっちかが、もう耐えられないと、ヘレンと離れるのが。離れて厳しくされているのもちょっと耐えられないから、とにかく2週間だけねみたいな。取りあえず2週間だけ、じゃあ、していいよみたいな感じで、2週間共同生活が始まるわけです。

樋口 でも許すんですね。何かそれ、言う方も許す方もちょっと覚悟がいるような気がしますね。

深井 どっちも覚悟、いりますよね。だから僕はこのサリヴァン先生のこの提言もすごいなと思って、初めての仕事だよ。やったことのない初めての仕事で、雇い主である両親に対して、彼、彼女らの意思に沿わないことを早々の段階で強い意思を持って提言するということができる人はこの世の中に何人いますかね。

樋口 俺は無理だな。

深井 すごくないですか。

樋口 クライアントですからね。だってクライアントにこうしたらいいですと、絶対だめだと言っているのに、いやいや、絶対しますというのを初めての仕事でやっているわけですよね。

楊 自分のやるべき仕事の意義って何なのかって本当に分かっていたし。

深井 分かっているね。

楊 それを貫くだけの信念があったんだろうね。

樋口 ということですよね。

深井 だからヘレンがここで服従を覚えない限りは本当に自分がいる意味がないから、やっぱりそこをやらないと意味がないと思ったんでしょうね。親の言うことを聞いていてもしょうがないと思ったんでしょうね。

楊 そうだよね。だって普通になあなあでやって、高い給料をもらうというやり方もあったじゃん。

深井 あったよね。

楊 そうそう。だって結果が出なくてもたぶん別に責められなかったと思うんですよ。もうしょうがないよねって。

樋口 だと思う。

深井 でもその状況の中で、当然、ヘレンには嫌われていますから、サリヴァン先生、この時点では(笑)。頭をなでたりとかもさせてくれなかったし、当然キスとかもすごい嫌がられたらしいですし、向こうからキスなんか絶対してくれないですし、母にしかキスしなかったらしいです、ヘレンって。

樋口 ですね。前回もちょっと言いましたけど、自分の自由を奪う敵ですからね。今のところ先生は。

深井 そうなんですよね。だけど、まずは自分の言うことを聞いてもらう。それほど自分を信頼してもらうということに集中します、サリヴァン先生は。お母さんと離して家に連れていくわけですよ。その家もどこにあるか分からないようにわざと回り道とかして、要はちょっと行ったら家に戻れるとか思わないようにということですよね。かなり遠くに来たと思わせて連れていって、お母さんが出ていくんだけど、その時点でヘレンはもうめちゃくちゃ混乱するわけ。お母さんがいなくなるからさ。

楊 そうだよね。

深井 え、何で、みたいになるわけですよ。何でいなくなるんだみたいな、今までそんなことが1回も起こったことがないのにいなくなってしまって、もう泣きわめくわけですよ。この泣きわめくヘレンにまた教育を即行で始めるので、泣きわめいているときはほったらかしにしたりとか、要は何もしないということですね。放置。そうしたら2時間そのままずっと泣きわめいたりとか、かんしゃくを起こし続けていたりとかしたらしいんですけど。

楊 スパルタ合宿だね(笑)。スパルタ合宿だよ。

深井 スパルタだよね。あとは、やっぱり同じベッドに入るというのも、初日、ベッド1つしかないから同じベッドで寝ようとしたんだけど、すごい拒否したらしくて、ここでもまた2時間かかったらしいんだよね。ベッドで寝かしつけるために。そこでサリヴァン先生、感想が残っていたんだけど、子供ってこんな体力があるんだと書いてあって面白かった(笑)。

樋口 リアル。超リアルな感想。

深井 こんな2時間も暴れられるんだと書いてあって、リアルな感想だなと僕も思いましたね。驚きましたと書いてあった。それでヘレン、ほおを触るしぐさがお母さん、来て、という意味なんですけど、とにかく戸口のところに行ってずっとこうしているらしいんです、ヘレンが。お母さんがいないから来て、来てとずっと言っているみたいなね。

楊 ホームシックだよね。

深井 ホームシックになっているわけですよ。だけど、そんな調子で、ただ、ずっと力ずくでつづりを教えたりとか、やっちゃいけないことはやっちゃいけないよということをあれしたりとか、わがまま言っても一切無視するみたいなことを続けていった結果、やっぱりちょっとずつ従順になっていくわけですよ。従順というか、言うことを聞いてくれるようになるわけ。ヘレンも反抗しても意味がないということをやっぱり経験的に学んでいくわけですよね。

樋口 それがすごい。いや、俺、何か今の話ずっと聞いていて、どうしてもサリヴァン先生目線で聞いちゃうんですよ。僕も子供とかいるから。でもよくよく考えたら、ヘレン・ケラー目線で聞いたら恐怖以外の何ものでもない。

深井 怖いですよね(笑)。

楊 でしょうね。

樋口 ですよ。だから要はもう永遠の別れかもしれないわけですからね、親との。

深井 そうそう。ヘレンは何でここにいるかも分からないし、サリヴァンが誰かも分からないし、なぜお母さんがいなくなったかも分からないから、不安で不安でしょうがないわけですよね。

樋口 僕らは全部知った状態でこれは教育のためと言っているけど、ヘレン・ケラーからしたら人さらいにさらわれて、犯罪者からいつ殺されても分からない状態ということですか。

深井 そう。そういう状況かどうかも分からないじゃないですか。だから本当に敵なのか味方なのかも分からないんだけど、やっぱり一緒に生活していく上でこの人が敵じゃないことが分かっていくわけよ。

樋口 そこだな。そこだ、そこだ。

深井 敵じゃないということも分かっていくし、自分と何かを今しようとしているということが分かってくるわけ。一日中、手で何かやってくるわけ、そして。それをまねしたら褒めてくれるし、かわいがってくれるし、何かそういうことはちょっとずつ分かっていって。単語は覚えていくわけですよ。指文字の形をね。18個の名刺とか、3つの動詞とかいってどんどん覚えていくわけ、この時点でもすごい。結構、ヘレン、頭がいいんですよね。

樋口 すごい。

深井 どんどん覚えていって、それ、すごく褒めてもらえるんですけど。途中で両親が見に来るんですよね、このヘレンの状態を。そのときにすごく驚いたらしいんですよ。めちゃくちゃ静かになっていると。

樋口 うれしいね。

楊 すごいよね。

深井 今まで見たことないぐらいすごい静かになっていて感動したらしいです。この時点で両親としては、この先生にちょっと任していこうというのをだいぶこの時点では思い始めているところですね。

樋口 うわ、うれしいね。

楊 逆にどれだけやかましかったんだろうという感じだろうね。

深井 いや、でもずっと四六時中、たぶんあれしていたと思いますよ。何かいたずらとかもめちゃくちゃしていて、初日にサリヴァン先生を部屋に閉じ込めて、その鍵を隠したりしているからね。

楊 あったね。知能犯やん(笑)。

樋口 知能犯や、マジで。

深井 それで爆笑していたらしいよ。そういうことをしていた状態から、非常に静かになってきたと。同じベッドで寝てくれるようになってきたし、単語とかも覚えつつあると。ただ、この時点でもまだ物に名前が付いているという概念がないわけですよ。例えばドリンク、飲むという単語、あとマグカップのマグ、コップということだよね。あとミルクという液体という、これを例えば分からないわけ。これが3つとも別々のもので、別々のものを指しているということが分からない。だから「drink」とか「mug」とか「milk」みたいなつづりをすると、何か飲み物をもらったりとか、飲んでいるときにそれをやっていることは分かるんだけど、物に名前が付いているのも分からないし、その違いも分からないから、これ、何なんだと思っているわけですよ。

楊 そうだよね。言葉と言葉の境界線というか、それが区別がつかないもんね。

深井 そう。まだ理解してないんだけれども、1カ月ぐらいたったときにサリヴァン先生が来て、1カ月ぐらいたったときに、1887年の4月5日、これ、運命の日だと自分たちで言っているんだけど、彼らが。ついに単語の概念を習得するんです、ヘレンが。

樋口 えー、すご。

深井 これ、本当、何かひょんなことだったんだけど、何でそれでいきなり分かったかって、それまでの蓄積があるんじゃないかなと思いますけど。

楊 そうだろうね。

深井 ずっといろいろな単語を教え続けているわけ。丸1カ月間ずっとね。こもって2人で。そうしたら朝、顔を洗っていたらしい。昔って水道がないから、たぶんこういう洗面器とかに水を入れてこうやって顔をサリヴァン先生が洗っていると。そうしたらヘレンは目で見て指を指せるものしかその時点では指させないじゃん。

樋口 はい。

深井 指定できない。だから抽象概念について指すことはもちろん、言及することはもちろんできないし、何かが欲しいときとかも目に見えるものしか指せないわけ。だからこうやって指さすことによっていろいろなことをあれしていたんだけど、水を指さしていたらしいんです、そのとき。これ、何だみたいな感じで。それで「water」とつづるんだけど、ミルクとの違いもそれはやっぱり分からないし。

 さっきも言ったようにマグとドリンクとの違いもまだ分からない状態だったんです。この朝の時点ではね。だけどサリヴァンはこのときに何かひらめいたらしくて、井戸の水道の出口のところまで連れていって、こうやって水を出しながら、あとコップを持たせて、水が注がれるときにずっと「water」ってつづっていたんですよ。

楊 水がパシャパシャかかっている腕にね。

深井 そうそう。たぶん蓄積だと思うんです、これは。だから、これをやったから分かったんじゃなくて、今までずっとやっていてここで分かったという話だと思うんだけど。このときにヘレンがいきなり分かるんですよ。「water」が水のことなんだと。この指で今やっているこの形は、この水のことをずっと言っているんだということが分かったわけ。急に。

楊 そこでひも付けられたもんね。言葉と感触が。

深井 すごいよね。ヘレンにとってもすごいそれが衝撃で。コップを持っていたんだけど、その場で落として立ちすくんでいたらしい、しばらく。

樋口 そうなるわな。

深井 急に明るい表情になって、何度もサリヴァン先生に「water」というのをつづり、返してくるわけです。これが「water」なんだと。次は地面を指さして、じゃあ、これは何だみたいな。そうしたらサリヴァン先生が「grand」とつづってあげたりとか。急にいろいろなことが分かったから、あらゆるものを指さし続けるわけです、ヘレンが。

楊 すべてのものに名前があるんだということを知った。

深井 ことにここで気付いたんです。名詞があるということに気付いたというのかな。これに初めて気付いて、こう指さしていく中で、じゃあ、サリヴァン先生は何なんだということで指さすわけですよ。

楊 あなたは何、誰みたいな。

深井 そうしたら「teacher」みたいなね。あとお父さんとお母さんはパパとママですよね。ダッドとか。「father」「mother」かな、最初に教えたのは。

楊 でしょうね。

深井 この数時間で30個の単語を覚えたらしいですよ(笑)。興奮していたらしい、すごい。

楊 そうだよね。これが第1のクライマックスだよな。ヘレン・ケラーのサリヴァンの。

深井 これは、だから映画になっているのはここまでなわけ。映画はラストシーンでこれに気付くところで終わるんです。

樋口 何か人間の知能からすると言語の習得って相当1個、ばーんと開くはずですよね。

深井 一気に開けますよね。すべての世界との接点がそこで、人間的な接点が開けていくわけですよ、ここでね。

楊 自分と世界との関係性が分かるんですよね。言葉ができると。

深井 本当にそうなんです。この日の夜に初めてサリヴァンの寝床に自分から入ってキスしてくれたらしいです。

樋口 うわ、たまらん。

楊 マジ、感動しますよね。このときのサリヴァン先生の気持ちを手紙に書いてあるんだけれども、心が張り裂けるほど喜びであふれたと。

樋口 そうなるわな。1カ月、だってずっと心が通じ合ってなかったわけですから。

深井 そうなんですよね。やっぱりサリヴァン先生はこの間もどうやったら単語を人間は覚えていけるのかというのを、ヘレンのいとこの赤ちゃんとかが家に来ていたりしていたらしいんだけど、その赤ちゃんをずっとじっと見て、どういうふうに言葉を覚えているんだろうみたいな、ずっと意識していたみたい。しかも面白いのが、サリヴァン先生、自分で仕事、向いてないと思っているんですよね、この時点で。自分には全然向いてなくて、むしろ自分にこそ先生が欲しいと。どうすればいいか全然分からないけれども、才能もないし、どうしようみたいな、先生、欲しいわみたいな感じで思っていたんです。

樋口 だって成果が出てないですからね。目に見える。

深井 まだね。そうそう。

樋口 そう思うのはしょうがないな。

深井 そいなんですよね。

樋口 でも、それはうれしいね。

深井 物の名前の概念が伝わった後は、じゃあ、この後、抽象概念をどういうふうに伝えていくかみたいな。例えば小さいとか、あとは身体的動作を伴わない動詞ですよね。考えるとか、どうやって伝えるかなんですよ。

樋口 まだ全然ハードルが高いね。

深井 例えば小さいとかが分かったときのエピソードというのが残っているんだけど、犬が子供、子犬をたくさん産んだんだって。6匹ぐらい同時に子供が生まれたと。そうしたら、その時点で名前は分かるようになっているから、「dog」とか「puppy」みたいな感じでたぶんつづってあげているわけ。その中でみんな小さいんだけど、ひときわ小さいやつがいるじゃん。そいつはベリースモールみたいなことを伝えてあげる。ほかのやつはスモール、こいつはベリースモールみたいな。

 そうすると小さいという概念とベリーという概念がそこでヘレンが分かって、ベリーってこういう意味なんだみたいな。じゃあ、これもベリー何々かみたいな、これもベリー何々かみたいな、そうしたらその通り、その通りみたいな感じで教えてあげて。

楊 比較だよね。

樋口 比較させる。

深井 そうそう。あとヘレンが何か手作業していて、ビーズを確か糸かなんかで通す作業をしていたときに、こういう通し方をしなさいみたいにいろいろな教え方をしていたら、ヘレンがこうやって考えたらしいんですよね、1回立ち止まって。その瞬間にシンクというのを教えるんですよ。考えているその瞬間にシンクって。

樋口 へえ。

深井 それで、これがシンクという意味なんだみたいなのが分かる。

樋口 マジ? それ、分かる?

楊 すごいよね。

樋口 これは1回じゃないんでしょうね。

楊 やっぱり繰り返しだと思うんですよ。繰り返し。

樋口 そう、1回じゃないよね。

楊 繰り返しだし、その瞬間に機を逃さずにすぐつづるというね。だからサリヴァン先生にとってヘレンが手に触るものすべてが教材だし、一日中、指文字でヘレンにつづっていたんですよ。とにかく。

深井 そうそう。サリヴァン先生がここで言っているのは、子供が経験的に知っていることであれば、それを教えることは簡単だと言っている。言葉よりも経験の方が圧倒的に大事で、経験さえしてくれていればそれを伝えることはできると言っているんですよ。

樋口 うそ、すげえな。

深井 二十歳だよ。

樋口 二十歳か。

深井 すごくない? すごいよね。でもその通りだよね。子供がそういう経験をしてくれていれば、それってこう呼ぶんだよとか、こういうことなんだよと言ったら、あ、あの経験ってこういうことなんだということがすぐ分かるわけですよ。

楊 そうだよね。確かに。

深井 でも経験もしてないことを言葉だけ教えても分からないわけ。サリヴァンが言っていて面白いなと思ったのは、むしろヘレンじゃない人たちって言葉を先に勉強しているじゃん。だからそっちの方が難しいと言っているんですよ、この人。

樋口 ちょっと何かもう、来る、何か。

楊 確かに言っていたよね。やっぱり自分で経験したりとか、子供の関心が一瞬で向いたそのときに一番習得性が高まるんですよね。だからそのときに機を逃さずに教えるんですよ。だから経験してないし関心を持ってないものに対して言葉をいくら教えたって、子供って入ってこないよということを言っているんですよね。すげえな。そうだよね、確かにと思う。

樋口 これ、教育とは何かレベルの話を今しているんですよね。

深井 そうです。その後、神秘、ミラクルとか、生殖器の生殖、ちょっと英単語が分からないけど、永久、エターナルとか、異常とか、現象、フェノミナンとかいうすごい難しい単語もヘレンは習得していくんですよ。

樋口 すごすぎるな。

深井 こういう抽象的な単語もサリヴァン先生の教育によって獲得していくんですね。あとこの次のステップはやっぱり文章なんです。これは本当、僕もどうやって教えたんだろうと思っていたわけ。最初、単語をどんどん覚えていったときにヘレンがどういうふうな表現をしていたかというと、指文字でしていたりするんですよ、ヘレンは。指文字とか、アルファベット、書き方を教えていたから手紙とか書けるようになっていたわけ。指文字のアルファベットと書くアルファベットを対応させたら書けるわけじゃん。

樋口 すごい。

深井 だから手紙とか書けるようになったけど、文法を教えられないわけじゃないですか。聞いてないからさ。最初は、例えばやっぱり単語を並べるだけ。赤ちゃんに歯がない。赤ちゃんは食べられないというのを、「baby teeth no」「baby eat not」と言っているわけです。だから文法的には間違っているじゃん。

樋口 間違っています。

深井 中学生の英語よりもひどい英語でしゃべっている。あとは「eyes shut」「sleep no」、これは子犬を触りながらこの子犬は何か目が閉じているのに、まだ子犬って目が開いてないですよね。目が閉じているのに寝てないねと言っているわけ、これで。「eyes shut」「sleep no」と言って。こんな感じなわけですよ。

 この状態にどうやってしゃべれようにするかというのが非常に面白かったんですけど、サリヴァン先生の方は普通に文章でまず教えるんですよ。普通に文章をつづるわけ、指で長く。それはヘレンはまだ知らないわけ、単語も。これは何だとなる。何だとなるんだけど、1つのことをいろいろな言い方で教えてあげるわけです、サリヴァン先生は。そうすると、あ、このとき共通しているんだとか、このとき何か出てくるこの単語ってこういう意味のかなみたいなのがちょっとずつ分かってくるらしいんです。めちゃくちゃ反復し続けると。

 例えば、たぶんという「maybe」とか「probably」という言葉が英語であるんですけど、これもヘレンがお母さん、今、どこにいるの? ということをまず聞いてくる。それにサリヴァン先生の答え方は、私は知らないけどたぶんここにいるでしょうと答えるんです。そうするとたぶんの意味が伝わっていくんですよ。確かにそうだなと思うんです。言葉を聞いて覚えるときと一緒だよね。

楊 確かにね。

深井 聞いて覚えるときもそうやって覚えているんだと思いますよ。

楊 確かに俺らが英語とか勉強するときも、文章中に分からない単語があったら、あ、この単語、もしかしてこの意味なんじゃないの? という思考になるもんな。

深井 そう。あとは、前置詞とかは点字が書いてあるカードを用意して、そのカードをいろいろなものに付けるんだって。ベッドだったら「bed」と書いてあるやつとか、あとはドールだったら「doll」と書いてあるやつを付けるわけですよ。その状態で人形をベッドの上に載せて、「doll is on the bed」と言って今度カードを並べ替えて伝える。その次、例えば「under the bed」とか、「in the bed」とかだったらたぶん布団をかぶせてとか、そんな感じで教えていくみたい。

 そうすると、あ、「on」ってこういう意味なんだ、「in」ってこういう意味なんだみたいなのを、ヘレン、もともと地頭がよかったから結構ぽんぽん習得していくわけです。

樋口 そしてそれ、よく考えたらメモれないですからね。

深井 メモっても読めないですから、自分でね。

樋口 そうですよね。全部暗記でやらないといけない。

深井 驚愕なのが、サリヴァンが来て3カ月後には手紙を書いているんです、ヘレンが。

樋口 えー(笑)。本当?

深井 すごいでしょう。しゃべったことがなかったんだよ。そうしたら、それがどんなこと書いてあったかといったら、「ヘレンがアンナに書きます。ジョージはヘレンにリンゴをやります。ジャックはヘレンにあめをくれるでしょう」という手紙を書いているわけ。

樋口 すごい。文章になっている。

深井 7歳にしてはちょっと稚拙かもしれないけど、でも全然普通だよね。7歳ってこんなものじゃん。すごくないですか。

樋口 すごい。

楊 確か指文字でサリヴァン先生に伝えながら、サリヴァン先生が文字で紙に書いていったんだったっけ。

深井 いや、アルファベット、結構、最初の段階で書けるようにもしていたはずだけど。

楊 そうだったんだっけ。それはすごいな。

樋口 すごい。

深井 読みづらかったらしいけど、すごく。それでさらにここに本を読ませるんです、サリヴァン先生。それはヘレンが理解できるかどうかは別として、とにかく本をひたすら読ませるわけ。最初、ヘレンは本を読めないから知っている単語を探すだけなんですよ。自分が知っている単語が出てきたらめっちゃ喜ぶみたいな。

樋口 要は点字みたいな感じ。

深井 点字を覚えさせて点字の本をこうやって読ませると。そうすると知っている単語が出てきたらすごい喜ぶみたいな。その知っている単語がどんどん増えていくじゃん。増えていくとこれも分かる、これも分かるみたいになってきて、あとは前後の文脈でこの単語はこんな意味なんじゃないか、この単語はこんな意味なんじゃないかといってどんどん覚えていくわけです。

樋口 すごい。

楊 知っている単語ということを見つけたときに喜ぶとか、知っているものを見つけたときにどうするかという、何か質問がヘレン・ケラーから来たときにすぐその場で何かを答えようとするんですね。絶対先延ばしにしないんですよ。

深井 しないんですよ。

樋口 サリヴァンがですね。

楊 サリヴァンが。要はヘレン・ケラーの関心が最高潮になったときに質問として出てくるじゃないですか。その瞬間にすぐ答えるようにするんです。ちょっと後で、それ、後で答えるね。私、今、伝えたいことがあるから、それ後で答えるねというのはないんですね。瞬間、瞬間すべて勝負しているというか。

深井 ちょっとまだあるので、これ、次回かな。これ、だから2回にわたって伝えましょう。サリヴァンの教育方針は。

樋口 なるほど。ちょっとじゃあ、次は次回ですかね、この続きは。

深井 はい。

樋口 ありがとうございました。

楊 ありがとうございます。

深井 はい。

(録音終了)

 

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