【ポイント】
①気持ちの臨界点を突破した高杉晋作は脱藩するが、兄貴分の桂小五郎が手を回して脱藩罪にならないように世話をした。
②さらに外国人暗殺と英国公使館焼き討ちを企て、後者を成功させる。
③突然10年の暇(いとま)を藩に願い出て、頭丸めて隠居を始めてしまう。
樋口:前回は、海外の様子を見てきた高杉晋作が、何と脱藩を決意したというところで。
深井:そうですね。自分の意見聞き入れられないんで、もう自暴自棄に、またなったんでしょうね。だけど、前までは父親を気にして、そういうでっかい行動取れなかったんですよ、彼は。けど、やっぱ上海での経験を経て、あと、今までのやっぱり松蔭とのやり取りだよね、それらを総合して、彼の中で、もう臨界点を越えてしまったの。で、父親に手紙を送るんですよ。このたび、国事切迫につき余儀なく亡命つかまつり候、っつって。
楊:律儀だね(笑)。ちゃんと手紙を送るんだね。
深井:律儀に、そう。それで国が、論理的に意味不明だよね、でも(笑)。
樋口:まあね(笑)。
深井:脱藩したからどうなるってわけでもないので。だけど脱藩するんですよね。脱藩して、脱藩するときに松蔭の墓に寄って参拝して、それから脱藩を決意して、攘夷運動に参加してくれるように明倫館の教授である加藤有麟っていう人に会いに行って、そこで、一緒に攘夷活動に投入しましょうみたいな話をする。そしたら普通に反対される。いや、やめとけっつって。で、やめとけって言われて、今度、桂小五郎に、この加藤さんが手紙を書く。したら、晋作迎えにきてほしいって手紙を書いたら、あと、脱藩しちゃったけど罪に問わないであげてほしいっていう話を手紙に書いて、その言うことを晋作は聞いて、脱藩が取り消しになります。
樋口:じゃあ一回帰るんですね。
深井:そう。桂小五郎が、本当兄貴分なんですよね、彼は。
楊:そうだね。みんなから兄貴に尊敬されて、慕われてますからね。
深井:そう。彼が脱藩罪にならないようにうまくまとめてくれて脱藩せずに済んだんだけど、これ以降の晋作と、これまでの晋作は、何度も繰り返しますけど全然違うんですよ。このあと外国人を暗殺しようとするの。
樋口:うわ。もう爆発してますね、何か。
深井:そう。爆発してる。もう振り切ってる。だから、今までの鬱憤ためてたやつが、もう、ばーんって爆発してる。だから軍備の増強が大事だとか思いながら、やってることはさ、
楊:過激になってるよね。
深井:別に軍備増強でもないし、何なら、それやったら戦争突入してすぐ負けるんじゃない?みたいなことずっとやってるわけ。だから、もうエネルギーの爆発だなと思ってます(笑)。で、自分がやってることを狂挙って、暴挙の暴の部分を狂うっていう字に換えた狂挙って呼んで、吉田松陰っぽくなってるよね、だから。諸君、狂いたまえって彼は言ってたからね。
樋口:自分でじゃあ、狂ってるっていうことを言ってるんですね。
深井:言ってる。狂いたかったんでしょう、だから。狂ってるというよりは、狂いたいと思って狂挙って呼んで、そういうのをやってる。だから無理やりそうしてる状態だよね、このときは多分。で、この頃、幕府はどういう状況かっていうと、朝廷から許してもらってないじゃん、開国を。で、ついに、その朝廷側の意見にあらがえなくなっていくんですよ、将軍が。なんで、将軍もお願いに行ったりするんだけど、全然聞いてくんないわけ、もう天皇が。で、この時点で、今まで数百年間起こったことのないことだったんだけど、もうそれぐらい幕府の権力が落ちてて、朝廷の権力が上がってきてる状態ね。やっぱ久坂玄瑞とかの動きとかもあって。
楊:当時、薩摩もバックについてましたからね。
深井:朝廷?
楊:朝廷のバックにね。
深井:バックにね。で、幕府に条約の破棄を求めるんですよ、朝廷が。で、攘夷を実行しなさいと。つまり開国してるやつをやめて、外国人を追い出すっていうことをやりなさいと言っていると。で、幕府は、そんなことはできないって思って言うんだけど、もうその言うことを聞かざるを得なくなっていく。幕府は困り果てますよね。なんで、将軍が仮病を使ったりして、何とかその時期を遅らせよう、遅らせようとするんだけど、ついに、その日がいつかっていうのが決まってしまう。5月何日までに必ず攘夷をしなさいっていうことが決まってしまうんです。できないんですけど、そんなこと、約束させられてしまうんですよね。で、その中で長州は、それを動かしてる急先鋒なわけです。そういう状況を、朝廷の人たちを動かしてね。その中で、さっき言った、外国人の暗殺を企ててるのが晋作たちね。で、晋作たちが何でその暗殺企てたかっていうと、当時、攘夷の話をしてるときに、やっぱり説得力を出すために、外国人1人ぐらい殺しとかないとって思ってたみたい。
一同 (笑)
深井:ひでえ話だけど、
樋口:ひでえ話やん。
深井:思ってたらしい。攘夷、攘夷って言ってんのに、俺ら、まだ外国人1人も殺してないよなっつって。ちゃんと殺してこそ、やっぱりこいつらは攘夷をちゃんとやってくれる人たちというか、考えてるやつらなんだっていう。
楊:薩摩の生麦事件って、この前やったっけ。
深井:そう。薩摩は殺してるわけ、実はイギリス人を。大名行列を絶対に横切っちゃいけないんですよ、日本の文化では。でもイギリス人が横切っちゃったんですよ。その横切ったイギリス人、いきなり切り殺してるんですね、薩摩藩が。
楊:かわいそう(笑)。
深井:かわいそうですよね。
樋口:かわいそう。
深井:切り殺してるんだけど、そういうのもあって、薩摩に負けてはいけないっていうのもあって、長州も1人ぐらい殺しとこうということで、ひどい話ですよ、ひどい話だけど事実です。そういうことをやろうとしたと。で、それに賛同した人たちを集めて、もちろん久坂玄瑞とかいますよ、その中に。そしたら外国の公使が、横浜の金沢っていうところ、横浜にもありますから、そういうの。で、ピクニックに出かけるという話を聞いたと。そのピクニックに暗殺に行こうとするの。
樋口:何でそんな楽しいときに行くんや。
深井:そうね(笑)。
楊:(笑)
深井:で、玄瑞が協力を、今度は武市半平太っていう、龍馬とも関係のある人なんですけど、土佐藩の尊王攘夷系の人に協力を求めると。そうすると、この武市半平太が、土佐藩の殿様の山内容堂っていう人にそれを言っちゃうんですよ。で、この山内容堂が、これを長州藩に知らせるんです。長州藩がびっくりするわけ。
樋口:そりゃそうや。
深井:俺らが今育ててるエリートたちが、めちゃくちゃやべえことしようとしとる(笑)。さすがにこれやられてしまうと、本当にもう、立場的に相当困ってしまうので、本当に勘弁してくれと、まじで勘弁してということで、藩主の息子が泣いて止めるんですよ。みんなを泣いて止めるわけ。そしたら、みんな感動するわけ。やっぱり殿様の息子ってすごく特別な存在だから、その人から泣いて止められたら、みんな感動してるんだけど、もう晋作、ぶっ壊れてるから、こんとき(笑)、もう全然動じてないらしくて、謹慎を命じられたのにもかかわらず、反省するどころか、初志貫徹を誓うための血盟書を作って、全員に、また血を使ってサインさせて、今度は英国公使館焼き打ちの計画を立てるわけです。
楊:これ成功します(笑)。
樋口:え?
深井:これは伊藤博文とかもこん中に入ってるんだけど、本当に英国公使館を焼き払うんですよ。
樋口:それやっちゃうんすね。
楊:やっちゃう。
深井:夜中に火を放って燃やして、燃やしてるのを、今度また酒の場で眺めながら、こうやってみんなで酒飲むみたいなことをしてるんです。
楊:(笑)
樋口:うわうわ、おかしい、おかしい。
深井:(笑)。燃えてんなあっつって、酒飲みながら芸者とかはべらせて。
樋口:えー、ちょっとどういうマインド?
深井:もうテロだよ(笑)。端的に言ったらテロリストですよ。
樋口:テロっすよね。
深井:テロリストです(笑)。
樋口:ちょっと迷惑、
深井:迷惑です(笑)。
樋口:ですよね、社会からすると。
深井:迷惑です。テロリストです。
樋口:むちゃくちゃするやん。
楊:ねじ、はずれたね。
深井:ねじ、はずれましたね、本当。
樋口:だめやん。
深井:これは犯人がずっとわかんなかった。っていうか、わかったとしても言えなかった可能性もあるんだけど、幕府側も。結局これも幕府が尻ぬぐいしないといけないから。一応みんなをまとめてるのが幕府っていわれてるから、そのリーダーであるおまえが責任取れよって言われて、責任取らされるわけよ、幕府は。
楊:イギリスから、めっちゃ幕府、詰められるんですよ。
深井:そう。何燃やしとんねんっつって。でも幕府は、徳川家だけど、俺がやったんじゃねえと思ってるわけ。けど、自分のまとめてる誰かがやったっていうのはわかってるから、
楊:もしかして、長州藩の人だって気づいたけど、でも長州藩って当時すげえ力を持ってたから、それに遠慮したっていう説もあります、幕府が。
樋口:なるほど。いろんな説が。
深井:だから、幕府かわいそうだよね。
楊:(笑)。そうね。
深井:もう本当に。
樋口:板挟みの板挟み。
深井:何が起こっても自分のせいなのに、
樋口:で、自分はいろんなところにいろんなこと言われて、何もできないみたいなね。
楊:だって、この英国の公使館の建築費用とかも幕府が出してるんですけどね(笑)。
樋口:かわいそう、幕府。
深井:そう。めちゃくちゃ金取られてんだよね。で、玄瑞らは、もうどんどん過激化していって、今度、もう藩主も巻き込んで、朝廷を通じて幕府に圧力を、次、かけ始めるんですよ。もう逆転してますよね。安政の大獄で吉田松陰とかああいう攘夷派の人たちが処刑されました。今度は、もう全く逆の方向に向かってる。で、安政の大獄で死んだ人たちに大赦令が出される。だから許されるんです。これで吉田松陰、まあ処刑されてましたけど、改葬することが許されるので、これで晋作たちが墓を掘り出したのかな。それでまた別の場所に移したりしてね。
楊:罪人としてその辺に埋められてたところを、ちゃんと掘り出して、死体を、遺体を洗ってきれいにしたんですよ。
深井:そう。で、松蔭って、もう本当、一瞬戦犯みたいになったんだけど、罪人みたいになって、お兄さんとかも、もう官職全部取り上げられたりしてたんだけど、このときに許されて、
楊:名誉回復されたもんね。
深井:そう。名誉回復して、松蔭、むしろどんどん神格化されていく、逆に。松蔭の残った遺著を藩に提出しなさいとか、松蔭の言ってた話とか、どういう人だったかっていうのをちゃんと記録としてまとめなさいとか、そういう話が出てくるんです。
楊:シンボルとして、
深井:そう。攘夷のシンボルに使われるんです。
楊:利用されるようになってくのね、今度は。
樋口:何か風が変わってきたというか、流れが変わってきた感じがしますね、急に。
深井:はい。で、幕府側はどんどん権力が落ちながら、朝廷にうかがって、うかがって、でも許してくんないみたいなで、攘夷のリミットが決められて困ってるっていう状況の中で、朝廷のさらに裏に長州藩がいるみたいな構図ね。で、薩摩もいるんだけど、このあと何が起こるかっていうと、この薩摩と長州の権力闘争に入っていきます。
樋口:また何かややこしいっすね。
深井:ややこしいっすね。
樋口:ここでまた、中で戦うというか。
楊:お互い違う国だし、ライバル意識相当ありましたからね。
深井:で、この朝廷との交渉役を、晋作やりなさいっていうことを藩に言われるんですよ。けど辞退するんです。辞退して、10年のいとまを請うんです。要は10年間、もう休ませてください。これどっかで聞いたでしょ。
樋口:何か松蔭先生が、
深井:言っとったよね。
樋口:言ってました。
深井:あれですよ。
樋口:まんまやるんや。
深井:そう。で、許可されて、頭丸めて坊主。坊主っていうのは僧形になって***。
楊:同じ髪型になってね。
樋口:(笑)。いや、ヤンヤンさんは髪ありますから。ちょっとありますから。
一同 (笑)
樋口:でもそうなんや。
深井:そう。それでも幕府と対決するつもりでいたらしいけどね。だから多分このときの晋作っていうのは、久坂とかがいろいろ政治を動かしてるんだけど、多分意見が違ったんじゃないかなと思うんだよね。
楊:うん。違うし、何かこう、ちょっと俺、違う、こんな感じで、俺、望んでねえなというか、ちょっと冷めてたかもしんない。
深井:冷めてると思う。ほかの人たちがうまくいってて進めてることを自分ができてないし、どうすればいいかわかんないっていうのもあって、ちょっと冷めてたか、何かずっとこんな感じ。ずーっとすねてる感じ(笑)。
樋口:(笑)。すねてるんですね。
深井:誰かとすごく共謀したりもしないし、共謀っていうのは、あれね、結託したり、
樋口:一緒に何かやるっちゅうことですね。
深井:めちゃくちゃ結託とかもしない。何か、ついては離れ、ついては離れみたいな、一匹狼感がすごいある感じ。
楊:そう。入り込んでないっていうか、どっかでちょっと距離感を取ってる感じはあるんですよね。まあ、なればいいし、ならなければならなければ(?)いいみたいな、そんな、ちょっと割り切った感じの爽やかさがありますね。
樋口:何かものすごく熱く燃えてるようにも思えるし、すごい客観視してるようにも思えるし、
深井:どっちもあるんでしょうね。
樋口:すごい不思議な、
深井:だから、冷めてる自分もあって、燃えてる自分もあって、英国公使館焼き打ちとかもするし、かといって、じゃあ花形の朝廷交渉役を命じられたら、それは辞退するしみたいな。
楊:それ、何か好きじゃねえみたいな。
深井:そう。彼はやっぱり京都で何かするっていうことに、あんまり価値を感じてなかったんですよ。で、特徴としては、長州藩以外の人とほとんどかかわらないんですよ、彼は。
楊:信頼できんって普通に言ってたよね。
深井:うん。だから、
樋口:変わってますね。
深井:変わってます(笑)。
樋口:(笑)。変わってるっていう一言で、
楊:何つうのかな。ちょっとアーティストっぽい感じもするけどね。
深井:そうね。
楊:アーティストかもしんないね。
深井:その中に、やっぱり自暴自棄な感覚があったんだろうなと思うんですけど、やっぱすっごい遊んでんだよね。そこでストレスを発散してるんだろうなって見てて思いますね。この間も、だってずっと夜遊びしてるからね。
樋口:何か一言で説明できない人間味みたいなのがあるな。
深井:そう。で、次回、ついに頭を丸めたその晋作が、次、何するんかっつう話なんですけど、
樋口:いや、全然何をするかわかんないですけど、その辺、
深井:そこからです。
樋口:ちょっと楽しみです。それでは、また次回ですかね。ありがとうございます。
楊:ありがとうございます。
深井:ありがとうございます。